第10章 天照手記ー魂の記憶ー
「話は聞いたぞ。なかなかに賢く、覚悟の決まった顔をしておる。
縁壱殿もお認めなさるはずだ!
鬼狩りの一派を築こうとは並大抵のものでは無い。それを表では商人をやっていこうとは.....。
これからどう活躍されていくか至極楽しみにしておるのだ。
何か困ったことや手がいる時は頼るがいい。」
誠寿郎は、桜華が安心できるようにかいつも以上に笑顔でそう申した。
「勿体のうお言葉。己の決めたことでございますが、叔父がわたしのところに来てくださらなければ叶いません事でございます。
まだ、何も始まってはおりませぬが、生きている間にも、後の世に継げるほどのものを築きたいと思うております。」
再び頭を下げたまま桜華は遠慮がちに答えた。
もっと厳しく接してくると思ったのだろうか。思ってもいない待遇に戸惑いを隠せていない。
「うむ。己の力のみで成せることなど所詮小さき事。周りの者を存分に頼り、巻き込んでいく事こそ大きな事が果たせるのだ。
恥じる事ではない。
そして、縁壱殿は素晴らしい教育者であり、剣の達人。先見の明もあられる。
そのような者から認められるのだ。きっと成せるであろう。」
「有難うございます。」
その後も、桜華のこれまでを話したり、今の鬼狩りの現状、鬼の出没の事など、4人で語り合った。
まだ幼い桜華にはこれまで鬼と闘うところどころか、鬼すら目撃はしていない。
感覚で己の父親が”人ではない物”に変わったという事が解っているだけであるが、今まで私がしてきた話の中で鬼という実態がつかめるようになっていた。
話しも幼いながらに懸命に聞き入り時には、誠寿郎
が桜華の考えを引き出しては、大人でも感心するほどの答えを出して見せた。
二人の反応を見て、言葉をかけられて、少しずつ桜華の緊張も解けてきたのか、徐々に表情を綻ばせて見せるようになり、場の雰囲気も明るくなった。
トン...トン...コロコロ......
と弾ませながら、開け放っていた障子の隙間から毬が転がってきた。
「まぁり!まぁり!」
「千!待ちなさい!そちらは.....!」
2歳くらいの赤子が室内に入り、それを追いかける男子の声が聞こえた。