第10章 天照手記ー魂の記憶ー
3日後、鴉でやり取りした結果、近くにある煉獄殿の弟の屋敷で落ち合うことになった。
私を鬼狩りに招待した時の当時の炎柱槇寿郎は痣で亡くなり、今は弟で痣を持たない誠寿郎が御当主をされている。
そのまた弟も位の高い鬼狩りをしており、所帯を持って子を沢山儲けていた。
誠寿郎も所帯を持ち子に恵まれているという。
3人とも我ら兄弟に良くしてくれた思い出がある。
今回のことも内密にとの事だが、どこかで御館様も聞いておられることだろう。
ただ、あの時と違い、不幸にうちしがれる己ではなくなった。
それも表情ひとつで見破られてしまうほどで気恥ずかしさを覚える。
それを証拠に誠寿郎は...
「ハッハッハ!縁壱殿!実にめでたいことであるな!共に鬼狩りをしていた時にその顔を拝みたかったぞ!」
と、腹を抱えて笑っておられる。
「誠寿郎...」
「やはり....双子の兄弟とはいえ、縁壱殿よりも彼奴に似ておる。のう。桃寿郎。」
「そうでございますね...。兄上。」
やはり兄の名は口にすることをはばかられる。当然の事だ。
良くしてくれた彼らを裏切った事は深い傷となって残っているのだ。
桜華もそれを感じてか、いつも以上に緊張しているようだった。
「顔をお上げなさい。桜華さん。」
「.....はい。」
桃寿郎は穏やかに声をかけた。
「桜華さんは桜華さんだ。あなたのお父上は確かに死んでも許されないことをしたが、君がしたことではないんだ。
それにも関わらず、普通の子ならば記憶があるはずもない赤子の頃から父を想い、その父を救わんと思いその歳で大きく行動に起こそうとする君と是非会いたいと私と兄で話していた。
今日、ここに来る事は、君にとって、とても怖いことだったと思う。
よく、来てくれた。
ありがとう。」
「と.......とんでもございませぬ!
父がしたことで、その娘や家族などの顔を見たくもないと思うのが、至極当然のことにございます...
それを会いたいと思って、こうしてお招きいただいたこと、
恐れ多く思っております。」
桃寿郎は一度驚いたようだがすぐに表情を和らげた。