第10章 天照手記ー魂の記憶ー
「桜華さん、本当にそれでよろしいんですか?」
「えぇ!だって、叔父上様みたいですし!わたしも、叔父上様の弟子となるんです。」
「流石、お目が高いですね...。」
そんな声が聞こえては、嬉しそうに満面の笑みを浮かべて桜華が戻ってきた。その手には何やら大事そうに、巧治殿から戴いたものを包んでいる。
「叔父上様!!このようなものをいただきました!!」
そう言って、包んでいた掌を広げて、私に見せる。
そこには、かつて私が幼少の頃に母に守りとしてつけて下された耳飾りがあった。
「なぜ...、これが?」
「いやいや、お恥ずかしい。コイツ、親父が現役の頃から、縁壱様への憧れが凄かったんですよ。」
「兄さん!!」
横から入ってきた慶治殿の言葉に茹蛸のように真っ赤になりながら、巧治殿は小さい声でいった。
「でも、桜華さんが、これを選ばれたのは、俺には偶然に思えないです。
きっと、縁壱様のように素晴らしい剣士へとなるでしょう。
心からお支えしたいと思うております。」
「有難う。」
「よろしくお願いいたします。」
「いえいえ!そのように頭を下げないでください!!」
巧治殿は慌てたように首を横に振りながら深く手をついて頭を垂れた。
「お住まいはお決まりでないでしょう。桜華さんはまだ幼い。幸いこちらには弟子に住まわせる予定で作った屋敷がまだ余っております。
それに、桜華さんは商いの才があられるとか。
細工屋としても、刀の商人ともなりました。
こちらで教えられることも可能ですし、縁壱様も夜鬼を狩りに出ることが出来ると思うのですが.....。」
「頼んでもよいのか?」
「はい。倅もあなたや桜華さんがいらっしゃるとなると気も今以上に入って精進すると思いますので...。」
「父さんまで!!」
巧治殿がまた慌てて慶一殿に物を申すが、すぐ、こちらに向き直り
「桜華さんと縁壱様のお役に立ちたいです。
是非ともこちらでお世話をさせてください。
そして、俺が、桜華さんが羽ばたいていくための踏み台になれるようしっかりお支えしていきます。」
と真っすぐに私たちを見据えて申した。
「何から何まですまぬ。よろしく頼む。」
「よろしくお願いいたします。」
細手塚家の者たちの厚意に深く頭を下げたのだった。