第10章 天照手記ー魂の記憶ー
初めに訪れたのは、世話になっていた細手塚家の屋敷だ。
細手塚家は高齢であった慶一殿は引退し、息子である慶治が新棟梁として技を継いでいた。
そして、弟の巧治は、屋敷を売ってくれた細工師に習い、装飾品などを作る職人となっており、商いをも始めていた。
彼らは、桜華の事情を話していたからか、良く接してくれ、巧治は、自らの作品を色々見せてやっては、気に入ったものがあれば貰ってよいと言ってくれた。
桜華は目を輝かせて、どうしよう、どうしようと言いながら楽しそうに見入っていた。
「お話しに聞いていたより、年相応のところがありますね。安心しました。」
二人の背中を見つめながら慶一殿がそう言った。
「ところどころ、年相応なところを見ていては、心和ませてはいるが、なんせ、両親を二度も亡くしている。
それに、人の心を読むことに長けていて、いろいろ背負ってしまう。
あの歳で、鬼狩りの一派を築こうとしている。その決意は私の手に負えるものではなかった。」
「あの子が.....。」
「私が来ずとも、兄を探すつもりだったようだ。あの歳で、しかも兄に最後に会ったのはまだ生まれてまだ半年の頃だ。
何か、魂の奥底で何らかの繋がりがあるように思えてならぬ。」
「縁壱様がそう思われたのならそうなのでしょう。儂から見ても、年齢以上にどこか聡明で賢く思います。」
「慶一殿がいうのならば、間違いはあるまい。私は以前、誰にも技を継承するつもりはなかった。
だが、あの子の強い使命感と心に打たれたのだ。
私は、兄と私の呼吸術をあの子に継ごうと思っている。
桜華の願いは継承一択のみ。
改めて協力を願いたい。」
細手塚家には、世話になりながら多大な迷惑もかけた。
そして、これからも、この一門を里から追いやった仇の男の弟である私が、その娘も共に世話になろうとしている。
「縁壱様。面を上げてください。人は誰しも鬼の心をどこかに持っておられる。ただ、それに抗うか、吞まれてしまうか.....。巌勝様は、その弱みを始祖に付け込まれてしまった。
ただ、それだけに過ぎないのです。」
「慶一殿...。」
この者たちには一生たりとも頭を上げることは出来ないのだ。
ただ、何度も何度も、苦しい時に一番に見抜いてくれたのもまた彼らだったからだ。