第10章 天照手記ー魂の記憶ー
月日はまた流れ、夏の盛りを過ぎる。
桜華の火傷は完治し、少しずつ体力が戻ってきた。
向かう予定だった炎柱と細手塚家にも仔細を報告し、しっかりと養生してやって欲しいとのことだった。
まだ8つの幼子。
養育者は自ずと私になった。
苗字は、三國屋の跡継ぎ問題で、桜華はまだ幼すぎると言うことと、伊左衛門の親族が血族ではない桜華を引き取ろうとしなかったため、三國屋を出る形となってしまった。
2人の記憶があるからと名をそのままで良いと言ったが、
「母様と父様はここにいます。そしてこれからは、叔父上様と共に志を同じくして共に生きていくのです。」
と迷うことなくそう言った。
よって、苗字は継国に戻り、継国桜華となった。
そして、三國屋の一周忌を終え、同時に舞踊では異例中の異例で歳若く師範の称号を得た。
その日の夜に桜華は私に話があると呼び立ててこれまで築いてきたものの意味を教えてくれた。
今まで習ってきた舞踊を使う事で、舞踊として私と兄の剣術を継承できるようにしたいと私に剣術の教えを乞う。
快く応じ、弟子としても剣術を教え始めることになった。
旅立ちの日。
三國屋の者の見送りはなく、空は相変わらずの曇り。
今年も気候が宜しくなく、不安定な世の中だった。
発つ前に、2人で静子殿と伊左衛門の墓を訪れ手を合わせた。
兄、奥方殿、静子殿、伊左衛門殿......
そしてどこかで生きているであろう巌正の分も
桜華を大事に育て一人前の大人にすることを、継国の当主に育て上げることを決意した。
出会って3年、弟子であり娘となった桜華を連れて三河の街を後にした。
その日、桜華から"3人目の父"であり"師範"であると言って、私の事を”父上”と呼んだ。
後悔のないように生きたいとの事だった。
少し恥ずかしがりながら、
「そうお呼びするのは、父上と二人でいる時だけです。
鬼狩り様たちの前では”叔父上様”です。」
と言っていて、耳を赤らめてそっぽを向いていた。
胸の底から込み上げてくるのは何であろう。
ただ、この上なくこの娘を愛おしく思い、その胸に抱く志を叶えてやりたいと思ったのだ。