第10章 天照手記ー魂の記憶ー
力の限りに泣き叫んだ桜華は再び気を失い、
近くにいた者に腕の良い医者を尋ね、そこへ向かった。
医者は事情を察し、深夜にも関わらず助手の者も呼んでまで診てくれ最善の処置を施してくれた。
火傷はもう少し酷ければ死に至るものであったそうで、背中全体に渡る火傷は、完治しても痕が強く残るとも言われた。
医者のご子息が気を利かせて、火事場を見に行った。
結局、全ての処置が終わったのは、朝日が昇る頃。
容態が安定し、時より魘されて、額にはまだ汗が滲んでいた。
日が昇りきった後にご子息が帰ってこられて三國屋のことを聞く。
出火原因は放火であり、下手人は破綻した同業の店の主だったという。
用意周到に家屋を燃料で囲って火を放ち、逃げ場を失った店の者は逃げ遅れて、助かったのは桜華だけだった。
実を言うと私自身も無我夢中だったゆえにどこから入ったのか全く覚えていない。
最終的には周りの店も飛び火した大惨事だったようだ。
うつ伏せになって眠る姪に対してただただ詫びることしか出来なかった。
桜華が目を覚ましたのはそれから3日後のこと。
目は虚ろで何も申さず、心ここに在らずといった様子。
精神的に病んでしまったのかと気が気でならなかったが、しばらく頭を撫でていると動かないまま首と視線だけを私に向けて、大粒の涙をはらりと零した。
「叔父上様........」
「どうした。」
言葉を探すように目を泳がす。脳裏にあの光景があるからか、火傷からの熱からか瞳は充血している。
「けがは...お怪我はありませんでしたか?」
「.........!!」
なんという心が強く優しい子だ。
そう言われたことで、胸が軋むのは、
恐らく義理とはいえ親を目の前で見捨てなければならないという状況であった子どもが目覚めてすぐに言う言葉ではないからだ。
「大事ない...。桜華は体、痛むだろう。あまり無理をして話さずともよい。
ただ、静子殿だけでも助け出せてやれず、申し訳なかった。」
桜華は目を伏せ、穏やかな顔で首を横に振った。
「叔父上は...何も悪くないのです。女将さんは...、あそこから出ても長く生きられなかったはずだから...。
叔父上が来て下されたとき、父が帰ってきて助けてくださったようでした。」