第10章 天照手記ー魂の記憶ー
ただ、この年はなかなか雨が降らず晴れもせずで、作物が育たないことであちらこちらで飢饉が起きていた。
各地で裕福な商人や役人を狙った暴動が起き、怪我人、死者、または病に苦しむものも多く聞いた。
三河の地もも例外ではなく、桜華がいる三國屋の者たちが住まう近くの店が焼かれたり、米問屋など、食を生業にするところを中心に被害が出ていた。
それに便乗するように、鬼が数体町の人を喰う被害も出たということもあり、早めに三河に向かった。
ある夜。強い胸騒ぎがして、深夜、呼吸術を駆使した足で三國屋の街へ向かう。
街に近づくたびに、真夜中日が燃え盛るように空が異様に赤くなっているのが見えてきた。
遠くで半鐘が激しくなるのが聞こえる。
更に嫌な予感に冷や汗が額に滲んで焦る気が増した。
どんどん見慣れた景色が三國屋に近づいていくのがわかる。
それと共に、人のざわめき声や悲鳴が聞こえてくるようになり、周りの家屋をいそいそと壊す音も聞こえてきた。
「火事だぁ!」
と、逃げ惑う民衆。
その者を掻き分け、現場へと急ぐ。
どんどん足を進ませる道は、まっすぐ三國屋へと繋がる。
イヤな予感がさらに増して、冷や汗が止まらない。
その時だった。
「み、三國屋が焼かれた!」
走ってすれ違った男の声を、言葉を聞いて心臓が割れそうなほどにざわめいた。
息が出来なくなるほど苦しくなる。
冷静でいられなくなった。
ふと、うたが血を流して倒れている姿が脳裏を占拠する。
あの時の絶望が蘇った。
桜華...
桜華...
静子殿
伊左衛門殿
住み込みで働いていた者たち
無事で逃げていてくれと切に願い、信じ、
気持ちを落ち着けて再度走り出した。