第10章 天照手記ー魂の記憶ー
しかし、舞踊を何のために取り組んでおるかは約束の時に教えると申し、仔細はのちのお預けとなる。
流石に、今の段階で踏み込んだところまではいかぬもののそれなりに、こちらが動き出した時の協力が得られそうな者の目星はついた。
会いに行く度に桜華と静子殿と伊左衛門殿とも話を交わしていく。やはり、ここへ養子に来たからには、ここで商いをしながら裏で動くということになりそうだ。
しかしそれは、桜華が主として、店を切り盛りして大きくしていく事を念頭に置いたもので、三國屋の次期当主として婿を迎える事になるらしい。
当人は懸命に学問や鍛錬に精を出し、その後ろ姿は大人を驚かせるほどの取り組みようなのだという。
あと一年となった頃、約束の日に桜華を連れて煉獄殿と細手塚家に桜華を連れていく事が決まった。
会わぬ間も鴉を使って連絡を取り合い、近況を報告し合う。
鬼狩りの仲間に会う事に関しては、やはり後ろめたさからの緊張が解るほどの反応である。
送られてくる文で見る彼女の字は達筆で大人とやりとりを交わしているような錯覚に陥るほど。
屋敷に顔見せに来てくれた煉獄殿にその手紙をみせると大したものだと言っていた。
それぞれが着々と約束の時に向けて備えていくのがよくわかっていたので、来る日にどれほどのものになっているかが楽しみでならなかった。
気付けば時はあっという間に過ぎて、そろそろ三國屋へ桜華のところへ向かう日となる。
彼女は8つになり、私は28を迎えたが、痣を持って死んでいった同志たちのような体の急激な衰えは全くなく、一般の者のような健康体で何の異常もない。
生まれながらに頑丈で強くあった私の体は、以前は疎ましく思い、為すべきことを果たせなかった者として情けなく思っていた。
しかし、彼女に会ったことで、私の役割が与えられた。
以前のような後ろ向きの考えは今の私になく、ただ前を向いていられるのは彼女に出会えたからであると感謝の思いを感じていた。