第10章 天照手記ー魂の記憶ー
その晩は、桜華と布団を並べて眠りにつき、翌朝、静子殿と伊左衛門殿に話をし、2年間、私の方の準備をすることと、その後の桜華自身の動向によってはまた世話になる事を告げると快く了承してくれた。
桜華ともまた話をした。
父親であり、当主でもあった兄の事を覚えている限り話してくれた。まだ齢半年であったにも関わらず、覚えていることが多く、そして、感覚的にも覚えていることがあるらしく、それを聞けば、幼いあの頃の兄が、そのまま大人になったように感じ懐かしくも感じた。
その後も、お家取り潰しとなり、母が病になり、三國屋に養子に出され、母の訃報と兄の話を聞かされて悲しみに暮れていたのを三國屋の者が支えてくれたという事。
たった6年ほどの人生であれど波乱万丈ありながらも愛にあふれ恵まれた人生だ。
それは、いずれ事を大きくなしそうな強い期待と良縁で周りを巻き込むような強い力を感じさせてくるほど。
私の孤独で冷えた心が再び燃え上がるような気がした。
その翌日には三國屋を後にした。
桜華は、見送る時、姿勢を正してそこに凛とした姿だった。
まだ幼いながらも武家の血を引いているのだと分かるほどに。
翌日から早速準備にかかる。
まだ交流を続けてくれる炎柱家
兄と私の事で刀鍛冶の里を追放された細手塚家
彼らを訪ねる手はずを整えながら、あの日逃がした鬼の娘"珠世"を探すことも始めた。
炎柱である煉獄には、文にて、兄の娘に会ったことと、兄の事で行動を共にするかもしれないということを。
細手塚家にも同じくそのような事を書き、また、そのために協力して欲しいことを伝えた。
全ては、桜華と共に行動するために支障がないように、手助けが得られるようにという目論見である。
炎柱・煉獄はすぐに返事をくれ、聡明で不思議な桜華に興味を示してくれた。
細手塚家の棟梁も何なりと協力すると申してくれ、出だしは好調だった。
三ヵ月に一度会う約束で三國屋を再度訪れた時は、桜華は商いを切り盛りするための学問と舞踊を熱心に取り組んでいた。