第4章 矛盾
時刻は日付が変わった新月の夜
猗窩座はまた無惨の元へ出かけて行った。
誰もいない部屋にただ一人。
猗窩座に買い与えられた鬼避けの藤の香をたき、布団にもぐる。
毎日のように後ろから与えられる暖かさになれてしまって、今日は眠れそうにない。
ここらでは珍しく雪が降るという寒空。
山奥のこの民家は当然のごとく寒い。
ただ不安と寒さで眠りにつくことが出来ず時刻だけが過ぎていく。
どれだけそうしていただろう。
冷たい風が古びたこの建物の戸をカタカタと揺らすだけの静寂、
とたんに、ずぅんと息ができなくなる程の重苦しい気配を感じて飛び起き、辺りを見回した。
感じたことのあるこの波動に悪夢が蘇る。
緊張が高まり冷や汗が吹き出て
5年前の記憶が噴き上がるように強烈な怖気に戦慄す。
上弦の壱…。
だけど、襲ってくる気配がない。
どんな武器もあの男には玩具にもなりはしない。
そんなことは解っていても、鉈と鎌、筆談用の紙とペンを持って外に出た。
吹雪いて視界が悪い中、その姿はこちらを見るだけ。
姿を感じるものの遠いままで、気配の主は近寄ることなくそこにたたずんでいる。
「猗窩座の残り香を便りにここまで来た…。随分な可愛がられようだな…。
殺さぬ…。他言もせぬ…。姿をさらせ…。」
どういうつもりなのか
その言葉に嘘偽りを感じることはなく、
理由が解らないが、自分をこの男は殺す気がないらしい。
声の主に一歩一歩と近づく。
一族の仇である男を前に心を隠して毅然とした姿で立った。
「5年ぶりか…。久しいな…。日神楽桜華」
六つの目は中央の目に『上弦』『壱』を黒文字で記した黄色い瞳を赤で囲む目。
猗窩座よりも遥かに重々しい空気を纏う黒死牟。
5年前桜華の一族を滅ぼし、護衛の鬼殺隊員及び2人の柱を葬った張本人
《何用で》
と書いた紙を見せて怒りも何もない能面の心と眼を向けた。
「口を利けぬというのは誠のようだな……。
おまえの残り香を残さぬうちにここを去りたい……。
手短に話す……。」