第4章 矛盾
それから3度目の新月を迎え季節は冬。
他の鬼のように定住するような縄張りを持たない猗窩座は桜華を抱えて暖かい地域を転々としながら、行く先々で暖が取れる空き家を見つけながら生活をしていた。
他の鬼の襲撃を受けて以降、変わったことがいくつかある。
桜華が眠るときに猗窩座が「おまえが寒そうだから」と同じ布団に入るようになったこと
買い出しにも桜華を連れていくようになったこと。
そして、猗窩座が桜華に話しかけてくることが増えたこと。
人間との繋がりがないどころか、鬼である猗窩座一人しか接点はない桜華だが、表情も少しずつ増えていった。
今宵は新月。
また、どこかに行ってしまうのだろう。
決まってその日は無表情で凍り付いた表情になる。
わたしから離れてどこかに行くときは必ず出会ったあの日に感じた修羅をにじませているように思う。
でも、どこかそれは、苦しそうで、本人の意と反する行為のように思えてならない。
言葉が話せたら、ちゃんと話をして引き止めたい。
≪今宵も、出かけられるのですか?
あなたの様子を見ていると、どうしても行きたくないように思えるのです≫
筆談で尋ねると、それを読んでは見慣れてきた優しい表情になる。
「心配する必要はなにもない。必ず戻る。
いつものように俺がいなくなれば藤の香を焚け。」
そういいつけては、また背を向けて引き戸に手をかける。
その後ろ姿は見るに堪えないもので
気づけば手を伸ばし、猗窩座の腕を掴んでいた。
行かないで欲しい。
どうして?
わたしは人間で、彼は鬼なのに…。
わたしがいないところで、わたしのせいで傷ついているのなら
どうか切り捨てて欲しい。
振り向いた時の驚いた表情は、視線を重ねると同じ目線にかがんで、優しく微笑むの。
「必ず帰ってくる。まだお前が話せるようになるまで手放してやれない。
桜華がちゃんと生きたいと思うまで、俺は必ず帰ってくる」
安心させるように優しく抱き締めて頭を撫でてくれる。
それで安心するわけもない。
だけど、それ以上返す言葉もなくて、温もりが離れていくときに無事に戻ってくることを祈ることしかできない。
それがもどかしくてしょうがなかった。