第10章 天照手記ー魂の記憶ー
その瞳に烈火如き燃ゆる心と眼差しは、兄が家族を置いて鬼殺隊に入隊した時の表情と酷似していた。
そんな目をするな。してくださるな…。
「私はいつまで生きられるかわからぬ身の上。鬼狩りは私のように痣を持つ者は例外なく25の歳を迎えるとこの世を去っていった。
私ももう26になる。今こうしていても、何時ぞや倒れてしまう。」
「それはこの乱世でしたら、どのように生きようとも明日の命も知れたものではございません。」
「決まっているのと、そうではないものでは可能性の有無が違う。」
「いいえ。決まってはおりませぬ。人は嘘をつかれる時、一瞬考えるように視線が上へずれます。叔父上は視覚情報が優れていらっしゃるのでしょう。
まだご自分の体が今まで見てきた御仲間さまと何かしら違うと思っていらっしゃるのではないですか?
今も体が硬直していらっしゃいます。」
「.........!!」
透視して感じたものは動体視力と脳の言葉を司る部分の異様な働き。
だがそれが分からない。
ただ何もかもが読まれてしまうという衝撃と子どもとは思えぬ気迫で押されそうになった。
「4つの頃より父が物の怪になってしまったことに気づきながらも、何もできぬ自分が歯がゆくてなりませんでした。
まだ、6つのわたしでは何もできないのは重々承知しております。
しかし、同じ思いを共に胸に抱いて生きているのは叔父上よりほかにございません。
共にその苦しみを分かち合いながら
父を...、鬼がおらぬ世にするための方法を
叔父上と共に探って行きとうございます。」
畳に頭を強く押し付けて物を申すそれは、長らく誰にも言うことが出来ず心にしまっていたと理解するに容易かった。
無下にも出来ないその思い。
私が、桜華の分も兄を討つと言ってしまうことすら許されない。
まだ六つだ。
それはいかなる大人であれそう思うであろうし、桜華もそれは痛いほど分かっているはずだからこそ、どうしたらよいか分からなかった。
「桜華殿の申すことは相分かった。だが、私はまだ連れては行けぬと思っている。
しばし、猶予が欲しい。」
「はい。承知致しました。」
そうは申しても、まだまだ大半が考えが変わってくれることを強く願い期待している己がいた。