第10章 天照手記ー魂の記憶ー
その後も、桜華は私から離れることはなく、カルガモが子を連れているようだと、三國屋で働く者からも言われるほど。
話す事は大人びいていても、そのようなところはまだ年相応で可愛らしいものだと思うが、私の隣にいてはまた、この娘をも不幸にさせてしまうという恐怖がどうしても拭えない。
7日目、流石にこれ以上厄介になる訳にも行かず、再度話をしようと二人になる。
「行ってしまわれてはなりませぬ。」
開口一番に申したのがそれであった。
しかし、それは子供が駄々をこねる様とは違い、私の何かを悟っているような強い意志を持つ眼差し。
「叔父上様がこの街を出られるのなら、わたしもご一緒します。そんなに心の重い荷物を抱えてはなりませぬ。
叔父上様と同じく、わたしにも、少しだけですが父と同じ血が流れております!
叔父上様だけが父の家族では無いのですよ.....」
言ってることはわかる。
だが、私の隣にいたものは失った。災いをもたらせてしまった。兄が残した子は同じような道をたどって欲しくないのだ。
そして危険な目にもあって欲しくない。
今のまま穏やかな日常を送り、大人になり、所帯をもって子を授かり.....
そんな何不自由のない生活を送って欲しい。
まだ、子どもだ。
どんなに弁が立とうとも気持ちは定まるのは今でなくてもよい。
「このまま、長閑になんの気苦労もなく幸せに生きて欲しい。
唯一、私が願うのはそれだけだ。」
「意地でも死んでもついて行きまする。父がこれから奪う命は計り知れない。
そんな父を何の策もなくのうのうと生きている方が苦しゅうございます……。
世の中はあちこちが飢饉で、商人とて何時ぞや襲われる事になるかもわからないと、女将さんも番頭さんも話しているのを聞くのです。
ここで生きても、明日が来ないかもしれない。
そんな世の中で、何もしないで後悔するのは、元武家の娘として生き恥にございます……!」