第10章 天照手記ー魂の記憶ー
込み上げてくる、この娘への懺悔と、兄への想いが拗れてこのままいっそのこと死んでしまえたらとも思った。
でも、私は生涯一人で戦うと決めた。
己の罪と
兄と鬼舞辻無惨を滅っすること
私は私の意志で誰かを巻き込むことなどしたくない。
「叔父上様、どうぞ。お使いくださいませ。」
桜華に手巾を差し出されたことで、己が涙をこぼしていることに初めて気づいた。
不甲斐ない。
私はこうも弱くなってしまったのかと思う。
目の前の娘も然り。
嗚咽を堪え唇を固く結んで大粒の涙を流していた。
「かたじけない。しかし、これはあなたが使いなさい。」
桜華がここまで泣いてくれることに心が温まり自然と頬が緩むのを感じた。
一度出したものは引けないのか、袖で涙を拭いながらぶんぶんと首を横に振って手巾を押し返してくる。
最後にひとつ涙を拭って私を意思の強い眼差しで見上げた。
「叔父上様。父の御話を聞きとうございます。
わたしの父が人ではない者に変わってしまったのは何となくですが解るのです。
父の成れの果てをお伺いしとうございます。」
私は自分の耳を疑った。
この娘が父を知るすべはあるはずがない。
しかし、このような幼子がつく嘘などわかりやすいもの。
第一に、鬼という言葉を出していないものの”人ではない者に変わった”と疑いの心もなく申すそれは、真に6つの幼子であろうかと思うほどで、お館様のような威厳すら感じ得るものだった。
しかし、この子は知らぬほうがいい。
鬼になった親の話など、親を殺されてもなお気丈に振舞う幼いお館様だけでも心苦しいというのに。
「あなたが知って心地よいものではない.....。
私を叔父などと呼んでくださるな。
私はあなたにとって仇のような者...。」
「そのように涙を流される方を仇だとは思いませぬ。
継国の家で生まれた者として知っておきたいのです。
どうか、お聞かせ願いませんか?」
嫌われることを覚悟で突き放す事も出来たのに、そうできなかったのは、
幼き頃の優しい兄上が、幼いころにおいてきた私の心に語り掛けているような不思議な感覚がそうさせたのかもしれない。