第10章 天照手記ー魂の記憶ー
永正十二年 皐月
継国の屋敷を10数年ぶりに訪れる。
屋敷は朽ち果て、既に生家がないことを知った。
近隣住民に尋ねると、悲惨なもので
兄が家を出たものの、結局は御家取り潰しになってしまわれたそうで、数年後、奥方が病で倒れたという。
奥方は病身でありながら、まだ幼い子ども達を奉公か養子にと女手一つで世話しようとしたらしい。
うち、兄が家を出た時生後1年にも満たなかった娘はどういう経緯か武家ではなく三河の大きな呉服問屋に引き取られ、嫡男は母が亡くなるまで片時も離れず、母が亡くなるのと同時に家を出て行方知らず。
母(奥方)が養子先を当てていたが、迎えに来る前に一人で出ていったという。
いたたまれない気持ちと、罪悪感で押しつぶされそうだ。
兄であり、継国の当主だった巌勝は家族を守るということは建前だったのやもしれないが、私を追って家を捨てたのだ。
私がいなければ彼らは家を失わずに済んだ。
私がいなければ兄は平穏な人生を送れたのかもしれない。
悔んでも悔やみきれない気持ちが抑えきれず
せめて、行き先が解っていた娘だけでも、幸せに生きているかどうかが知りたかった。
私が知る事で私の罪を軽くしたいわけではない。
ただ、もし、いたたまれないような環境で生活を強いられているのなら、兄の代わりとして、助けたい。そう思っていた。
娘の名は継国桜華。
いや、引き取られた先は三國屋。
三國屋桜華を探しに、三河へ旅立った。