第4章 矛盾
その瞳は何を思って、心の目で何を見てるのか
それは今のことなのか、過去のことなのかは解らない。
ただ、
目の前の鬼は自ら望んで鬼になったわけではなく
大きく深い悲しみと喪失感、絶望を大きく抱えたまま鬼になったのは明らかで
休みのない鍛練、誰かと命を懸けて戦うことでしか心を保てなかったんだと思う。
それをわたしがいるという鍛練も死闘もできない状況で、その抑えきれない暗い海の底のような記憶を伴わない感情に支配されているんだろうとそう思えた。
それを人間であり、代々鬼のいない世界を目指す家系に生まれたわたしが
いくら本人が意図しない鬼舞辻の呪いであろうと
何百何千と殺したこの鬼の心の中の氷を溶かしたいと願うのは
決して許されるべき願いではない。
だけど、
『人間も鬼もわたしはもう一度やり直す機会があっていいと思ってる。
桜華は凪だ。どんなに気が立つ人も君の前では凪になる。
素晴らしい可能性を持っているんだよ。』
もし、御父様がわたしに遺した言葉に甘えていいのなら
彼に…、猗窩座に
他人や感情、思い込みに支配させない自分自身で掴みとる人生を望む気持ちがあるのなら
どんなかたちであれ、もう一度そのきっかけになればと思っている。
わたし自身に見せる姿が猗窩座の人間の頃の姿そのままで偽りのない波動を感じているからこそ。
次第に心とからだが暖かくなり
疲れも合わさって
こんな状況でもいつのまにか眠っていたと気付いたのは暫くたってのことだった。