第9章 月詠の子守唄
その後も様々な事を調べられて、俺の体が医学的にも人間である事を再確認できた。
鬼である二人が俺の血や体から感じられるものは、縁壱さんに似ているらしい。
痣も人間に戻れたのもいろいろな軌跡が重なったことだと改めて説明された。
仮に人間に戻りたい鬼がいたとして、そいつがもし桜華の血を飲んだにしても、同じようにはいかないだろうと言っていた。
「鬼成不血は、わたしが一番に発見したのが前世の桜華さんでした。彼女からも沢山研究に協力していただき、鬼狩りを一人で続けていらした縁壱様が、彼女の血をもって鬼を退治しにいったり、当時の炎柱様に内密にその血を使っていただくこともありました。
結果は理性が乏しい鬼は焼失し、ある程度強い鬼を捕獲して、その血を摂取させたところ、中には一部人間の時の姿に戻る者もおりました。
鬼はその血以外口にしなくなり、仮に他の血を飲ませればもだえ苦しみ、結果として半年も生きられたものはおりませんでした。」
「珠世さん。桜華が黒死牟にあった時に渡されたという本に同じことが書いてあったのですが、もしや、それって...」
「十中八九、私が研究した資料で間違いないでしょう。それがあの鬼に渡っていたというのは驚きですが、以前、複写して日神楽家にお渡しした資料が紛失したということが解っています。」
「やはり...。」
黒死牟がどういう経緯でそれを拾ったかは不明だが、それも、自分を彼女と共に逃がそうとアイツを決意させた一つの要素になったのなら、それもまた大きな運命だったのだと思わざるを得なかった。
「桜華さんの血は、別名”優しい血””許しの血”とも言います。あなたの体に順応したのは、おそらく鬼になる前に強い自責の念があり苦しみ悶えた過去があるからではないかと思います。」
珠世からそう聞かされた時、全身を暖かい風が吹き抜けていくような衝撃が走った。
あの時、俺が桜華を助けようと思ったのは
俺がその許しと優しさを求めたからだったに違いない。
それは意識したり直感で思ったことではなく
俺の深いところで眠っていた人間だった頃の俺が
無意識領域の最奥で強く求めたことだったのだと
そう思えてならなかった。