第9章 月詠の子守唄
翌日。
桜華の妊娠を機に知らされたことは、日神楽家のお産は、珠世の幻惑の薬を生まれた赤子に摂取させるために珠世が手伝っていたという事。
桜華と彼女の兄が生まれる時も、他の兄妹、本家に近い親戚が生まれる時も珠世と雇っていた産婆と一緒にお産に関わっていたという。
要するに、桜華たちが生まれた時、愈史郎もいたということだ。
蒙古斑のような掌にあった勾玉模様は、前世、死ぬ間際まで大事にしていたという巌勝が桜華と兄に渡したものらしく、それを知っていて記憶も残っていた今世の父親となった縁壱が、それを見て桜華と巌正だと確信したという。
桜華は、その話を聞かされているときは時々懐かしむような表情を見せ、横から聞くことはしなかった。
特に落ち込むことはなく、しっかりと前を見据えている姿は何とも勇ましく美しく思った。
だからとて、不安定になりやすい時期だろう。
わかっていても、鬼狩りとしての夢はまだ走り出したばかりで課題が山積みな状態の中、焦りを感じたりするのだろう。
珠世の指示で胎児に負担をかけるかもしれないということで全集中常中、痣が出せる状態から外れるよう指示が出された。
当然、その分桜華の体に伴い力も弱くなり戦えない状態になる。
俺は俺で、屋敷の建設や、道場の創設の関係で宇髄や他の連中とのかかわりが出来て、この先一人で外出する可能性も増えてしまうかもしれない。
珠世さんたちが、アイツらから400年もの間逃げきれている分、大丈夫なのかもしれないが、それも万全だとは言い切れない。何も起きないことを願うばかりだ。
話しが終わった後、桜華の採決が終わり、今度は俺の体や血を調べるらしく、彼女は自室に戻され、珠世は愈史郎に俺の採血等を任せ研究室へと行った。
血を抜き取られる瞬間を見ながら、改めて鬼が人間に戻ったことを思うと不思議なものだ。
「随分と女房想いだな。元鬼だったとは到底思えん。」
愈史郎は俺にそう話しかけてきた。
「桜華は体質といい、何かと不思議な女だ。そして強い。出会いがあんなものではなかったら、俺は今でも我も過去も忘れたまま無謀な殺戮を繰り返していたと思う.....。」
「それは胸糞悪い話だな。」