第9章 月詠の子守唄
暖かい大好きな手でゆっくりと撫でられてる感覚
目覚めないでまだ、こうしていたいな。
いつの間に眠ってたんだろう。
久しぶりにいっぱい泣いて
過去の夢を見て、父の心からの笑顔を思い出したから
ここに来るまでに見てきた、感じてきた愛に包まれたから
今は少し落ち着けたかな。
頭上で聴こえる息遣い
暖かいこの感触。
胸に寄せられて、大事にしてもらてる感じ。
きっと珠世さんは狛治に色々話したんだと思う。
「桜華......」
大好きな声で呼ばれる。
起きたの解っちゃったかな......
「桜華......起きたか?」
ゆっくりと目を開けば父とおなじ痣を覗かせる着崩した胸。
少し上を見上げたら優しい眼差しを向けられて胸がきゅっとしまる甘い目覚め。
お揃いの耳飾りが揺れるそれは
同じものを志す証。
「珠世さんから、お義父さんのこと聞いた。
この世で、縁壱さんほどに立派な最期にできた人間はいなかったと思う。
お義父さんが守った今をしっかり俺らで繋ごう。
桜華は一人じゃないからな....。」
わたしが欲しい言葉を知ってる。それがどんなに心強いかこの人は知ってるかな。
「そう......言ってくださると思っていました。みんなが、一番にあなたが側にいて支ええくださるのです。
必ず、父がわたしに繋いだものを叶えます。」
心配いていたのか、ふっと表情は和らいで暖かい笑みを向けてくれる。
「良かった。だが、無理をするな。俺の前では当主ではなくただの一人の女だ。
ありのままでいてくれたらいい。
泣いたっていいんだ。」
一つ一つの言葉が嬉しい。
「不思議なことに、狛治に対して、無理をしようとか、隠し事をするとかそういうことが出来ないのです。
何でも見透かされてしまうし、心を偽ろうとする必要も感じない。
何度もそれに助けられて今があるのです。」
「そうか.....。」
額から後ろに髪をとかすように撫でてくださるから、ついうっとりとしてしまうと慈しむようにひとつ口付けられる。
「撫でられるの好きだな。まだ昼だ。眠りから覚めたばかりなのかもしれんが、あんまりいい表情して煽るなよ。」