第9章 月詠の子守唄
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母が、2度目のお産を迎える時の夢を見た。
あの頃は父が一人で、わたし達と寝室で御本を読んでもらってたのを思い出す。
父の声は優しくて眠るようにゆっくりと落ち着いた声で聞かされたお話を最後まで聞くことが出来ず、眠りに堕ちていた。
夢か現実かの狭間
お話はいつの間にか終わって、いつも父は子守唄を唄ってた。
「愛しい寝顔は あの頃のまま
月の天子は いつか
月詠みに会えるだろうか
天に召されず留まりし魂を月に返して
また生きる世こそ 名残月と日輪の出会う朝に
再び巡り会いて 分かち合いたい
優しいあなたの 面影残して
出会いし日を 懐かしむ
今は安らかに穏やかに笑って
いつか来たりし日には お守りいたしましょう
命の未来が 魂が月明かりに見守られるように
いつもわたしは そばにいる 」
微睡の中にきいた歌。
大きな手にトントンと優しくあやされて
意味なんて知る由もなく、ただ父の優しい声が大好きだった。
今は意味が解るの。
父は会えなくてもずっと傍にいる。
そして、あの悲しい歌も
幼いころのあの歌も
わたしと兄の他に存在したのは前世の兄弟のすれ違った想い。
ふたりは愛にあふれていた。
それが悲しい結末で終わり
今もそれを引き継いだまま。
わたしは、もともとの想いはあの鬼が人間だった時の僅かな記憶から
優しい父の面影を覚えていて戻って欲しいという思いと、罪と
業の悲しく苦しい連鎖を止めたいという思いであの鬼を止めたいんだと思ったんだとおもう。
あの時代では通わなかった悲しい愛も、社会の縛りが緩くなって秩序も概念も大きく変わりだした世の中だからきっと、次に生きる社会では大きく受け止められるだろう。
そんな未来に間に合うように、みんなで幸せになれるように、
わたしが終わらせればいい。
夢の中の父が笑ってる。
過去の夢の中で穏やかに笑ってる。
父は幸せな今世を生きたかは知る由もないけど
幸せな瞬間は確かにあったはずだから
優しく、穏やかな父の笑顔を覚えていればいい。思い出してやれたらいい。
それが、父が喜んでくれることだとおもった。