第9章 月詠の子守唄
「まぁ、そういうこった。実際、もっと時が経たないとどうなるかってもんは解らねぇけどな。
そうならないように気遣ってやってたんだろうが、地味にそんな便利なものはねぇ。
俺だって、嫁がいつそうなってもおかしくないんだ。
派手に目出てぇことだ。
大事にしてやれ。
ひょっとしたら、御館様もまだ会うことは先になるだろうって仰ってたのもこれがそうなのかもな。」
現実味がない感じとまさかと思う心がいろいろ混じって聞かされていることが解っているつもりでも、どこかうわの空になっていた。
「まぁ、無理もねぇな。帰りつくまでにはしっかりしてろ。アイツらも姫さんも一番に守ってやれるのは狛治しかいないだろ。」
「わかっている...。」
「そのうち、うちの嫁もまた連れてくるし、胡蝶も来る。俺らも道場の件は手伝わせて貰うぜ!」
「感謝する。せっかくここまで来たんだ。送ってく。」
「ありがとな。」
宇髄から肩を軽く叩かれて、狛治はその手が暖かく感じた。
「杏寿郎は元気か?」
「柱でもねぇ隊士にすらなってない奴だ。あんまり顔を合わせることは無いが、御館様に来年秋の選別に向けて精進すると言ってたそうだ。」
「アイツなら問題ない。」
少し前に細手塚家に来た時の杏寿郎の姿を思い出し、少し表情を緩めた。
「なんだ。ダチになったのか?良い奴だろ!派手にな。」
「あぁ。良い奴だ。お前も。」
急に自分に向けられた本音に一瞬驚いた宇髄だったが、ニィっと口角を上げて、筋肉質な腕でガッシリと狛治の肩を組んだ。
こういう無垢な不意打ちで惚れた女を確実に堕とすんだろうなと悟って面白く思った。
「派手に素直だな!おうよ!俺は色男だし派手に良い奴だろ?!」
「そういう所だ。」
「ハッーハァ!お前も大概な色男だな。気に入った。今日から俺もお前のダチだ!派手に喜べ!」
「もう喜んでいるさ。」
「お、おぅ」
穏やかな雰囲気で前を見たままの狛治は言う。
その姿に、この男が背負ってきたものと、今が本当に幸せだということが痛いほど伝わってきた宇髄は、
鬼は単に恨むだけの存在ではないことを肌で感じたのだった。