第9章 月詠の子守唄
頭の中がぼんやりとふわふわしたような感覚で、俺が先ほど天元から知らされたことが、全く現実味のない絵空事をきかされたような
そんな気持ちだ。
俺は、一度鬼だったはずだ。
何百年と長い間。
そんなことがあっていいのか?
許されるのか?
人を何百年も喰らい続けたこの体が作ったもので
罪深いこの俺に
あり得ない。
あり得ない。
でも、もし本当にそうなら......
俺は......
本当に......
暖かいものが胸を締めたり
涙まで出そうになる。
すれ違った女に何度か声をかけられたが
うわの空で「妻がいる」と断った。
数百年前とは全然違う男女の距離感に今更気付いたのは、それだけ桜華の事しか眼中になかったこととずっと一緒に過ごしてきたのだと思い知る。
あんなことを聞かされてか、さっき出て行ったばかりなのに、会いたいと思ってしまうのはよほどの重症なのではと呆れてしまう。
珠世さんの屋敷の前。
中にいる悟たちと珠世さんたち、本人である桜華はどんな反応をするだろうか。
昨日道場の事であれだけ一緒に頑張ろうと張り切っていた。
こっちはこっちで嬉しいんだが、桜華は......
落胆しないで喜ぶだろうか...。
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屋敷の敷地を出た時、狛治は怪訝な様子で宇髄に尋ねた。
「どうした。桜華に聞かれてはまずいことか?」
「いや、お前昨日の夜やったろ?」
「......それがどうした?」
やっぱり聞いていやがったかコイツと思いながらも、からかうのとは少し違った雰囲気を醸し出す宇髄に、疑問符を浮かべながらも開き直った感じでその先を促した。
「違和感とか、感じなかったか?」
「んん??何が言いたい。」
「姫さんの音のほかにあと二つ、弱い音を聞いた。」
「......は?」