第9章 月詠の子守唄
桜華を心配して彼女の部屋の前で明子と珠世が佇んでいると、やがて泣き止んだのか声が聞こえなくなった。
「暫くは、ひとりにしておきましょう。」
「はい。珠世さん。」
珠世の言葉だけで充分なほど、桜華にはいろいろ起こりすぎたのを明子も知っている。
通常の人間ならば起きえない事が何度も起こったのだ。
少しでも気が休まる時間が必要だというのは二人が思うところである。
すると、「ただいま帰りました。」という狛治の声が玄関の方から聞こえてきた。
「狛治さんにも伝えておきます。」
明子に頭を下げて帰ってきた狛治がこちらに来る足音に向かって足を進めた。
昼が近い薄暗い通路は住人の生活音だけ。
珠世と狛治が部屋に入った音が反響して鳴る。
明子は中にいる桜華の様子が気になり、心配する眼差しでしばらくとを見つめたあと、静かに台所へと戻っていくのだった。