第9章 月詠の子守唄
「桜華さん。あなただけのためじゃないのです。
縁壱様はこうも仰っていました。
桜華さんが兄といがみ合う事がないように
兄が実の娘で本当に愛していたあなたを自分の手で殺め心を痛めないようにと...。
そして、鬼のいない世の中にしなければならないというご自身の強い意志です。
彼は立派にご自身の代の役割を果たし切り、あなたが前世を思い出しここに来るまで、いや、思い出さなくともご自身の使命に目覚めるまでを引き継ぎました。」
涙といろんな感情がどろどろに苦しめてきて息をすることもできない。
声も発する事が出来ない。
ただ、父の覚悟と優しさと強さが胸を締め付けて
父と家族の思い出と様々な表情が走馬灯と表現するには生易しいほどの強烈な閃光が体中を駆け巡って抉られるような感覚に堕ちた。
「.....珠世さん。少し一人になりたいです.....。気に、なさらないでください.....時期、治まりますので、少々頭を冷やしてきますね......。」
そう言い残してあげられるのがやっとで、壁を伝いながら自分の部屋へとよろよろ戻っていった。
御父様.....
御父様.......
ずっと一人で背負いこませてごめんなさい。
何も覚えてなくてごめんなさい.......
ごめんなんて言わないで欲しいと笑ってくださるのが解る。
きっとこんな思いなんてして欲しくないと思っているし
この方法しか取れなかったって言うのもよく分かるの。
わたしだったらそこまでの覚悟なんて持てないから
全部の気持ちが解るのに
全部どうしようもない事だったのに
ただ、
ただ、
それでも、御父様の苦しさを思うと体の芯が引き裂けてしまうぐらい心が痛いの。
ようやくたどり着いた部屋に身を投げるように倒れ込んだ。
戸を締め切るまでは涙を必死に堪えて歯を食い縛った。
唇が腹のそこから沸き上がる悲しみと悔しさで震えた。
たったすぐそこから長く溜めていたモノがせり上がってくる。
「あぁ……うっ、ああ"……うああああああああああ!!御父様ぁぁぁあ!!」
ごめんね。
今だけはあなたの娘として泣かせてください。
きっとまた今まで通り笑って、だけどあなたの意思とわたしの意思で強く前に進むから.....
今だけは
今だけは.........