第9章 月詠の子守唄
「あれは、事件があったとされる1週間前のことでした。ふらりとこちらに尋ねてこられたのです。縁壱様おひとりで.....」
そこから語られ知ったのは
父が新聞で先に付き合いがあった同業者の新取締役が鬼舞辻にそっくりであった事で警戒をし、仮に商談などあった場合も祖父が対応するようになっていたという話。
そしてそれとなく、護衛鬼殺隊を使って探りを入れ本人であるか確認を取ることに成功したという事。
それからも鬼舞辻の手がかかった企業や組織などがないかと探るうちに、擬態して様々な場所を転々としていることが分かる。
それが解った頃、どのルートからか正体までは探られなくとも、産屋敷家との関連性を探られて、社会的に表立っていた日神楽家が狙われるようになり、産屋敷家との直接のやりとりを断ったのが事件の数か月前だった。
様々な状況から、近いうちに襲撃されると予感した父が、最新の技術の防犯設備、シェルターを整え、己の存在を悟られない形でこの命を終わらせると珠世さんに知らせに来たということだった。
「故意でか、不本意なのか、今になっては知りようない事なのですが、その方法だと思えるような物を買ったと思われる領収書が床に落ちておりました。
もう、事件のあった現場をご存じならば、ある程度は察しがつくと思われます。
そこからは余りにも残酷すぎて.....私の口からは言い表しようがないのです...。ごめんなさい...。」
消え入りそうな涙声でその言葉を口にした。
武器もない。斬れそうなものもない部屋で、となれば最新鋭の光化学的なものとしか思えなかった。
最終的にはその部屋もあの鬼が切って電気をショートさせたことで、その部屋の機能は破壊され、単なる部屋としか残らなかった。
そこまで父の覚悟と、生き残させるわたしに少しの疑いも残さないようにして散っていった。
「ごめんなさい...。辛いことを言わせてしまいました。」
正直、嘔吐しそうなほどの残酷さと、ここまで自分は何の記憶もなくただの小娘だったということがどうしても歯がゆくてならなかった。
父は強かった。
わたしは何も知らず愚かだった。
もっと父に寄り添っていたかった。
いろんな後悔と悔しさが身を抉るような思いに苛まれ
涙腺を絞られるような痛い感覚で涙がぼろぼろとこぼれていく。