第9章 月詠の子守唄
渡された手記を手に出口へと向かう。
手元にある手記の重さから、いろんな過去の憶測と見えていない過去への恐怖と好奇心で頭がぐるぐるとして落ち着かない。
ふと、父は、黒死牟が来るともしわかっていたのなら、彼に自分を殺させることなどするのだろうかと思った。
思い出したくもない父の悲惨な最期がふと脳裏に浮かぶ。
肉片となってしまった姿を父と思ったのは、父の匂いと温かさの余韻だけ。一緒に亡くなっていた隊士がその人だと思ったのも、彼の特殊な色が散らばってたからだ。
色んな憶測が脳を占拠して
心臓がもぎ取られるくらい痛い。
あの鬼が
前世から探していた魂の父であり
父の兄であるならば、
父は兄に自分を殺させはしなかっただろうと思うと
もう、そこに立っていることすらままならず、
目の前に珠世さんがいるのにも関わらず
膝を折って泣き崩れてしまった。
「桜華さん......」
「...........珠世さん、父は、今世生きた父は.......、どのような最期にすると........聞いてはいませんでしたか?」
「...........」
何も言葉はかえってこなかったけど、それを聞いた時息を呑むような息遣いが聞こえた。
きっと知ってて言うか言わないか迷っている。
この人になら、気づいてもらえるだろうか。
わたしが父が息絶えたのはあの屋敷が崩れる前だと、
あの鬼が襲来する前であったと気づいたことを。
だったら本当のことを教えて欲しい。
「色んなことを思い出し、事実を知った上で今のお話をお聞きして......
父は生まれ変わって生きていること知られてはいけない人だったはずです。
ただの自死ではなかったはずです。
父の最期の覚悟は相当なものだったのでしょう。
あのお部屋だけ、あの斬撃では斬れない有様だったのをわたしは見たのです。」
珠世さんには酷なことでしょう。
それ以前に抱えきれないほどのものを片時も忘れる暇も与えられなかった。
彼女こそ生き地獄の中400年も生き続けている。
抱えられるものは一緒に抱えたらいい。
わたしの家と長らく手を結んで鬼のいない世を目指してきた。
だからこそ。