第9章 月詠の子守唄
「こちらが、前世縁壱様と出会ってからの日神楽家の資料でございます。」
最奥の正面に分かりやすく設けられた棚には、日神楽家資料、日誌関連という項目が付けられている。
その資料は研究資料よりはるかに日誌の数が多い。
本の背は新たに付けられたのか綺麗で、400年たったとは思えない保存状態だ。
「紙の質も縁壱様がこだわって長く残せるものをと選んだそうです。
今のあなたのためでしょうね。」
えぇと確か...と言いながら、目当ての資料を探す珠世の後ろで、珠世の縁壱との約束を守ろうとしてきた思いの強さと、父のやさしさに大きく振れたような気がして胸が熱くなっていた。
「ありました。」
そう言って、立ち上がり振り返った珠世の手には『天照手記』と書かれた、分厚い本が3冊乗っていた。
「これは...。」
「お恥ずかしながら、表題は私が付けさせていただきました。こうして、今その表題を付けた手記をご本人の娘さんにお見せするのは気恥ずかしい限りですが、私にとっても、恐らくあの時のあなたにとっても、縁壱様は太陽の神様のような存在でした。
そして、私にとってはあの時のあなたも太陽のように照らしてくださいました。
この手記は、縁壱様が前世87歳の齢の頃、私を訪ねて置いて行かれた物です。」
それを聞いて、なぜか、自分の目からはらはらと涙が流れていくのを感じた。
目の前でぱらぱらと捲られて目に飛び込んでくる文字は400年前の特徴的な字体であるのに、それが懐かしいと思った。
「縁壱の...。叔父だった時の字です...。」
涙がとめどなく零れ落ちるそれを見て、珠世は静かに桜華の背中を撫でた。
「こちらに、あなたと縁壱様が前世共に歩んでこられた歴史が書き記されています。
それだけじゃない。叔父として姪としても娘としてもどれだけあなたを愛して大事にされてきたのかもよく書かれています。
こちらを読んでいただけたら、日神楽家の成り立ちも、出来事も様々な事の所以も全てわかるでしょう。」
「そして、今世亡くなる前の縁壱様の遺言も預かっています。
そちらを全て完読されてから読んで欲しいとのことだったので、まだ、お預かりしておきますね。」
「.....はい。」