第9章 月詠の子守唄
珠世の後をついて歩くが、隠し扉を開けたそこは、ずっと奥まで書類が並んでいた。
「ここは、私が、あなたの御父様に前世助けていただいてからのわたしの記録日誌と研究資料が置いてあります。」
「つまりは...」
「前世、あなたが御父様とこちらにいらした時にはお見せしていないものかと思いますが、その前からずっとここに書き溜めて置いているのです。」
振り返る事もなく部屋も薄暗い中、表情はよく読み取れないが、その声色は、昔を思うような懐かしむ声と、今までの苦労が読み取れるようなものだった。
桜華は項目ごとに綺麗に整頓された、天井から足元にまで壁のように並ぶ資料に圧倒されながら、上から下まで字を読んで、どんな資料があるのかを興味深く見ていった。
「桜華さんと私と、初めてお会いした日から、わたしとも日神楽家は繋がりがあったのです。
代々本家に生まれるお子様方、嫁いで来られる奥方様に、わたしの血を混ぜた幻惑の薬を渡していました。血縁が鬼になってしまわれた巌勝様と鬼舞辻に感づかれないため。」
珠世にそう言われて、黒死牟が二度も自分の前に来た時の彼の様子を思い返す。
言われてみれば、魂上の親子であるにもかかわらず、あの鬼は自分の正体に魂に気づいていないようだった。
だとしても、
「桜華さんは、前世こうおっしゃっていました。
例え、幻惑の薬が効いたとしても父はわたしに何等かを感じる心が残っていると。
巧一さんから連絡をいただいて、あなたが生きていると聞いた時に凄く驚いたのですよ。
そして、彼が二度もあなたの前に現れて、立場を逆手にとって、上弦の参だったご主人とあなたを逃がしたことも...。」
穏やかな様子で話しをする珠世からでる、自分の前世の話しが、どこか身に覚えのあるような話はしても詳細は思い出せないでいた。
思い出そうとして、黙り込んでしまうと、それを察して珠世が微笑んだ。
「思い出すのも至難の業です。日神楽家で今までに前世の記憶が残っていたのは縁壱様とあなただけです。
普通の人なれば、まず前世があること自体が信じられない事でしょう。
焦らないでゆっくりとでいいのですよ。」
「はい...。わかりました。」