第9章 月詠の子守唄
「宇髄さん、お気遣い有難うございます。
わたしも、狛治よりは弱いですが、一人の時は自分の身は守れますよ。
当主である以上甘えてばかりはいられません。」
「あっそぅ。ま、また会えんの楽しみしてるぜ。ド派手にな!」
宇髄は軽くあしらうように笑いながら答えたが、その表情と言い方に少しばかり穏やかな優しさを感じさせる。
「いい時間になりました。今度は是非稽古をつけてくださいね。」
「こちらこそです。お二人にはわたしたちの事、珠世さんたちの事を受け入れてくださってありがとうございます。
道中、お気をつけお帰りください。耀哉さまにも宜しくと。」
「そっか。あんまり俺らの痕跡が残らないほうがいいんだったな。見送りはいいが、ちょっとコイツ借りていいか?」
悪いことはしないというような笑みを浮かべて、桜華に言った。
宇髄が指した方にいる狛治は「俺か?」と言いながら、思い当たるようなことがなく戸惑っている。
「なぁに、取って食いはしねぇよ。ちょいと、コイツ借りて話しておきたい事があるだけだ。」
と、何でもなさそうに話してくる。
桜華も意味も解らず首をかしげるも、悪意を感じるところがなかったので、狛治をいってらっしゃいと送り出した。
「珠世さん、また世話になるぜ。二人と胡蝶もよろしくな。」
「宇髄さん、胡蝶さん、お気をつけて。」
「明子、悟も、またな。」
「お二人ともお気をつけて。」
「どうもお世話になりました。また、お二人の研究のために伺います。」
別れの言葉を交わした後、
カナエと宇随は日の当たる玄関の向こう側へと足を進めた。
「じゃぁ、俺も行ってくる。」
その後に続いた狛治の表情から察するに、疑問と納得のいかなさがうかがわれた。
それは桜華も同じだが、問題はないし、二人で話してきたらいいと思い、特に追及もしなかった。
ぱたりと玄関の戸が閉まるまで、5人はその後ろ姿を見送ったのだった。
「桜華さん。ちょっとよろしいでしょうか。」
珠世に呼びかけられて、桜華はそれに応え共に地下の部屋へと入っていった。