第4章 矛盾
正面を見たままで、悲しい表情と波動を感じる猗窩座が
本当に上弦の鬼なのかと疑いたくなる。
わたしを触れたり見たりする扱いや表情、視線が割れ物を大切に扱うかのように優しい。
同じく上弦であるあの男に全てを奪われたのに、
その後の出来事で完全になくしてしまった心や居場所を同じく上弦の鬼がわたしに戻させる。
抱えられることも、触れられることも触れることも
猗窩座には何の抵抗感もない。
ここ一ヶ月手をあげたり、何かをわたしに要求することもなく、暖かい食事と寝床と着物を与えられ干渉も放置もされなかった。
そして今日、鬼に襲われたわたしを助けてからは、わたしのことを好いた男のように接してくることに戸惑っている。
鷹と兎が共存できないように
鬼と人もまた共存することは限りなく難しい。
殆どの鬼があの男に監視されてるなかでの共存共生はさらに難しい。
だから、優しくされる程苦しくなる。
でも、彼に生かされてることが見返りのないものだかこそ
生きたいと思ってしまうし
ここにいたいと願ってしまう
でも、わたしの存在が彼の立場を危うくする。
彼がいないことでたくさんの人の命が助かるのにそう思ってしまうことは身勝手であると知りながら
存在がなくなってしまうことを考えると抉られる気持ちになる。
このままお別れして何も知らないで
知らないふりをして生きられるのかな
死にたくなるような地獄から引っ張り出してくれるこの鬼を。
猗窩座の計らいで連れてきてもらったのに
あまりにも儚く美しい自然と街明かりの絵画の世界と
その深い悲しみと罪を背負う鬼への想いが
心を締めつけるから
気づけば先ほどの命の危機など
どうでもいいくらいの小さなものとなっていた。