第9章 月詠の子守唄
「みなさん、有難うございます。のぼせないように早く上がりましょう?」
火照った顔を見て心配する桜華が声をかけるも、須磨は未だに泣いており
「だってぇ!そんな酷いことされてたらわたし、生きていけないですもん!
それなのに、桜華さん、そんなことでさえ気丈に話してるんだもの!
強すぎますぅ!」
「だからって、あんたは泣きすぎなの!」
と、まきを。
「二人ともいい加減にして!私たちが騒いでどうすんのよ!」
と、雛鶴。
当事者ではない3人の喧嘩を、どうしていいか解らず呆然と眺める桜華とカナエだった。
そのやり取りを見て、またもや自分達を受け入れて涙を流してくれる人ができたことに感謝した。
まだ、目の前で繰り広げられた意味不明の喧嘩にカナエが立ち上がり、
「まぁまぁ……みなさん桜華さんのためを思っていらっしゃるようですし、親睦を深めるために、洗いっこしませんか?」
両手を組んで左に傾けた頬にあてがうと、美しく優しい笑顔で皆に呼び掛けた。
楽しいことに敏感な3人は、言い合いをぴたりとやめてカナエの方を見ると、「賛成!」と浴槽から出ていった。
女同士でこんなにはしゃぐのは何年もご無沙汰だった桜華。
カナエに「行きましょう」と誘われてついていく。
肌に触れられるのは恥ずかしい気持ちもあったが、受け入れられた嬉しさと、みんなの楽しそうな雰囲気にのせられてはしゃいだ。
初対面なのにこんなにも打ち解けられたのは、"裸の付き合い"という銭湯のような力があるのかもしれないと、少し年増な考えが頭によぎったのだった。