第9章 月詠の子守唄
前に何体か滅した鬼にも、鬼殺隊の基本的な情報にも"女"は"稀血"の次に狙われやすいと聞いていました。
なのに、"男だけしか食さない"という鬼を聞いたのは初めてのこと。
とても信じがたいことですが、 それを話す目の前の女性の顔、雰囲気から全く虚実な話ではないと解るのです。
御館様は、裏で支えていたという彼女たちの存在を全くといっていいほど語っていない。
どのような意図があって、そのような重要な話をされなかったのかは柱でもないわたしが悟ることは難しいのかもしれません。
診察や薬学で鍛えた人の感情と体調を皮膚の色や表情で診る力と、嗅覚が判断したこの方は、決して嘘を平気でついたり騙すような方ではないのです。
そして聞いたところによると、この方の血は鬼を人間に戻す作用があるとのこと。
恐らく御館様も、この事をご存知でわたしに後々研究させるおつもりでいらっしゃるのかもしれません。
鬼と仲良くしたいというわたしの願いに、もしかしたら一定の理解があるように思うのです。
今回のこの方に同行せよとのお達しで、これからどのような真実に出会うのか解りませんが、お別れの時までいろいろとお話しさせていただきたく思っています。
桜華さんは、日神楽家のことはみなさんがお風呂にはいられた後にと仰り、これまであったことを わたしたちに話してくださいました。
一族を殲滅させられ、生き残り、人身売買から犯罪組織のおもちゃにされ、その仲間から逃がされ死のうとした時に旦那さんに出会ったこと。
そこから、一族を殲滅した鬼の援助で二人で約1年ほど二人で逃げ、唯一の日神楽家の関係者である細手塚家で鬼狩りになる備えをしてここにいると。
他人事のように淡々と話されていましたが、大きな苦難を乗り越えて今二人がここにいらっしゃるのだろうと思うと胸が張り裂けるようです。
音柱さまの奥さまたちは湯船に浸かりながら桜華さんを抱き締めて泣いていました。
桜華さんも驚いた様子でしたが、今までの緊張の糸が溶けたからかほろほろと涙をこぼされていました。