第9章 月詠の子守唄
一方、浴室。
傷だらけの体をさらすことに抵抗がない桜華。
しかし、他の4人は、 自分たちよりはるかに強いであろう桜華の体に、鬼狩りをしていてもつかないであろう傷の量と、右上と左下 にある大きな異形な痣に驚いた。
カナエは、一瞬、彼女が"夫"と呼んだ元鬼である男から受けた傷ではないかと疑うも、それならば男を庇うために一緒に風呂に入ることはないと思った。
宇髄の妻3人も桜華のそれに気付いて、3人のうちの一人"須磨"が「ひぃ!」と小さな悲鳴を上げて、"まきを"がそれをたしなめた。
「2人が煩くてごめんなさい……。その傷、私たちの前で見せるって言うことは、旦那さんがつけたものではないのでしょ?」
雛鶴が、ふたりの事を詫びると、桜華は首を振って気にしていないことを伝えた。
「こちらこそ見苦しいものをごめんなさい。
おっしゃる通り、これは彼に"保護"される前に人間によってつけられた傷です。この傷がなくて綺麗なままの姿では、彼が"女喰らわずの鬼"だったとしても、わたしはここにいないのです。」
「なに?え?どういう事?」
「あまり問い詰めるのもよくはありません……」
「カナエさん、大丈夫。傷のことも勲章ですし、"痣"のことは、いづれは柱の皆様に話さねばならないのです。
わたしの家系は代々産屋敷鬼殺隊の影として共に歩んできましたが、これからは、表に出ることも多いでしょう。
今夜、そして、これからわたしたちが鬼殺隊に関わるならば、知っていただいた方がよいのかも知れぬのです。」
感情の読めない顔で、目だけはしっかり4人を見た。
「元々、狛治は上弦という、無惨から大量の血を与えられ、沢山の人を喰らった鬼の気色が強い鬼。名を猗窩座といいました。
彼は鬼になる前のからだに残った記憶で女性に攻撃することも喰らうこともできなかった鬼。
その体に残った記憶で、傷や腫れ物だらけで自殺しようとしてたわたしを放っておけず、助けてくれたようでした。
彼から傷つけられたのは、人間に戻れるかもしれないわたしの血を彼に飲ませるためだけ。
手をあげられたことも、暴言を吐かれたこともない…
懸命に身の回りのことをしてくれて、守ってくれました。」
当時を思い出しながら語る表情は、柔らかく愛と感謝の念を感じさせた。