第9章 月詠の子守唄
狛治は、
桜華と出会った日のこと
宇髄に彼女が傷の体を見せようとした理由
今までの逃避行
鍛練での習得の早さ
細手塚家での2ヶ月間
いろんな場面で見てきた、感じてきた全てを話した。
それを時には深く相づちをうったり、途中途中で、本人の無意識で出てくる惚気話にこそばゆさを感じながらも、宇髄は口を挟むことなく聞いた。
話している時の
表情
選ぶ言葉
声色
仕草
どれひとつとっても嘘を感じる要素すらなく、鬼の片鱗もなければ面影もない。
ただ一人の女を深く想う愛情深い男に写る。
そんな狛治の様子に、元上弦の座に数百年君臨した男である事を忘れ、気付けば一人の男として同じ"妻帯者"として話をしていた。
「お前、本当に鬼だったのか?
強さ以外、どこにもそれらしいところが見当たらないぜ?」
腕を組ながら、狛治の顔をじっと観察するように見る。
それを身を仰け反って鬱陶しそうに顔をしかめて答える。
「聞いてたんだろ?それで間違いない。
ここまでこれたのも、桜華とその父親のお陰だ。」
吐き捨てるように言った言葉も本人の本心であるものの、人からは惚気にしか聞こえないらしく、腹を抱えて笑った。
「ハァ……、ハァ…、ハハ!ホント、お前はおもしれぇな。
派手に惚気まくりやがって……。」
「事実だ……。」
大笑いされたことに恥ずかしくなりむくれた様子でそっぽを向く。
宇髄にはそれすら面白いようで涙目で圧し殺すように笑った。
「……けど、いいんじゃねぇか?
命の危険を侵しても、人間に戻りたいと思えるような出会いは、誰にでもあるもんじゃねぇし。
俺は、お前らみたいな関係も出会いも想いも
単純に尊敬するわ。」
「口だけだろ……。散々笑い飛ばしやがって……。」
少しムキになって睨むように目の前の男を見る狛治。
だが、心の奥では自分の事を信用してそういってくれているのだと安心し、喜びと感謝の暖かさを感じていた。
「まぁ、そう怒んなって!」
女たちの楽しそうな声が浴室から聞こえてくる。
話の合間に聞こえてくるそれも、桜華が迎え入れられているという証。
狛治は、人と人との繋がりをしみじみと感じて噛み締めて、膝先に置かれた酒をあおった。