第9章 月詠の子守唄
「お前、気づいてなかったろ?」
「何がだ?」
「お前の奥方、お前の潔白晴らすために脱ぐ覚悟だったぞ。」
「?!」
予想外の宇髄の発言が、思いもよらぬ桜華への行動を読んでいたことに頭が真っ白になる。
"自分のために脱ぐ"それは、からだの傷を目の前の男にさらして過去を語ろうとしていたことに他ならない。
その気持ちを汲んで女たちと共に風呂にはいるよう勧めた宇髄に対して、桜華の想いに気づかなかった悔しさと嫉妬と安堵が入り交じった複雑な気持ちだ。
「いい奥方じゃねぇか。あんな肝が座った真のある女がお前のために腹をくくるんだ。
いろいろあったんだろ?」
「あぁ。」
先ほどとはうって変わって、優しい態度で接してくる宇髄を見ながら、心の中で桜華に感謝と己の不甲斐なさが混じった複雑な思いが胸を締め付ける。
「俺は、お前だけなら、その口からでる言葉を信じない。
だから、この態度を取ってんのは、お前だけを見て言ってんじゃねぇ。
御館様と、御館様が心から"友人"って呼んでるあの女が認め、惚れた"人間である"アンタだから言ってんだ。
俺は誰にでも甘いワケじゃねぇことだけは、頭に入れておけよ。」
「あぁ。それであっても、お前のように口を利く者もいないだろう。
感謝しているさ……。」
眉尻を下げて狛治は言った。
その様子を見た宇髄は目を細めて見て…
「お前から見た、お前の奥方の話を聞きたい。
そっから、アンタの人と成りを見せてくれ。」
と、穏やかな声で問いかけた。
狛治は、驚いたように顔をあげて、目の前の男を見た。
宇髄の心遣いが声色に合わさって場の緊張が緩まっていくのを肌で感じ、心の温度が静かに上がっていく。