第9章 月詠の子守唄
人間だった頃の颪はどんなに優しい人物だったのだろうか。
今の時代でも、「妖怪だ」「バケモノだ」と言われても致し方ない我が子をその容姿ゆえに恐れて殺してもなんらふしぎなことではない。
しかし、周囲の反応は冷酷なもので、この鬼の存在を許さなかったのだろうと桜華は悟った。
「ちちうえ.....。」
「なんだ?星一郎。」
再度親子が名を呼び合う。
「だいすき!ありがとう!
ずっと、どこまでも、いっしょ!」
子どもらしい笑顔から満面の笑みが溢れる。
颪は糸が切れたように声を上げて泣いた。
そして、小さい体の醜童はサラサラと灰になって消えた。
「星一郎!!」
その姿を桜華は涙を流して両手を合わせた。
先に逝った息子を追いかけたい。
そんな想いと裏腹に自身のからだが崩れる速さは変わらぬまま颪は茫然としていた。
暫くして、何か思い出したような表情に変わり再び桜華を見上げる。
「日神楽殿…、礼を申し上げる。」
「颪……。」
桜華は祈りを捧げるてを止めて颪を見た。
もうその姿は顔半分が塵となって消えたあと。
「黒死牟殿は、大きい罰を与えられておらぬでござる。
ただ、重要で難しい任を果たすべく奔走していらっしゃる。
健闘、武運を祈る………。」
「?!」
颪は桜華がその事をどうして言ったのか理解できぬまま、笑顔をうかべて塵となり
闇夜に静かに
消えていった。