第9章 月詠の子守唄
狛治の声は、冷静なようでいて、腹から出す怒りが身体の中に炎を潜らす。
その声は"元上弦の参"に君臨した人間の男にしか出せない、強い威厳を纏ったものだ。
「さぁ。貴様の坊主が危ういぞ。
柱の男と、俺と切磋琢磨してきた桜華もいる。
融合せねば俺たちには遥かに及ぶまい。」
挑発しながら、静かに重く怒る眼差しを目の前の鬼の親子に向けた。
ゴォォォォと渦巻く炎の音と共に対の刃を構え、僅かに開いた口元から炎が吹き上がった。
その光景を見た颪は目が血走るほど見開いて冷や汗を吹き出す。
(何故だ………!猗窩座殿ではない…誰かが、猗窩座殿に重なる……。知らない!あの御方の細胞が恐怖の反応を………!)
醜童は恐れを為して、侍鬼の腕にすがり、ガタガタと振るえている。
それを庇うように、その幼い姿に覆い被さるようにして抱きすくめた。
メリメリメリメリ
ぐちゃぐちゃぐちゃ…!
気味の悪い音を立てながら、醜童の体が颪に飲まれていく。
毛色が灰色になり、肌は一層青白さが増し、鬼の角が鶏冠のように後ろに向かうほど長いものが生え出す。
目は双眼の下に一つずつ増え眼球が真っ赤に染まり、黄色の瞳に瞳孔は鋭く尖り漆黒の色と化す。
融合したそれは人とは異なる異形の鬼。
禍々しさが重く渦を巻くようで、圧だけで言うなればもうそれは上弦の鬼と言っても過言ではない。
「ホロビルワケニハイカヌ!
コロシテ、コロシツクシタイ!!
ニンゲンナド、コノヨニヒツヨウナイィィ!!!」
人魂(ジンコン)を埋め込んだ猛獣が喋るようにガラガラと唸る声だけでも風圧を伴う。
融合した颪の足元大きくひび割れた。
「巨体になっただけのノロマにゃぁ、負ける気がしない。」
騒然とした重い風圧の下で
力強く
三人それぞれの呼吸音が鳴り響いた。