第9章 月詠の子守唄
「痛いよぉ、痛いよぉ。僕はただ遊びたいだけなのに、どうしてそんなに酷いことをするの?」
体が戻った醜童は両手で涙を拭いながら喚き散らす。
その声も害のある周波を伴っているが、二人には効かない。
「簡単なことだ。テメェが鬼だからだ。」
宇髄は冷ややかな目で醜童を見下ろした。
柱たる者、子供の姿であろうと"鬼"であり被害も出ている以上、容赦する心など持ち合わせてはいない。
醜童はおぞましい程の鋭い目付きで宇髄を睨んだ。
もう一度宇髄に向かう。
「血鬼術 抜心核(バッシンカク)」
一瞬にして周波数を操り透き通った状態になって宇髄に向かう。
しかし、聴覚に長けたこの男は向かってくる音、気配を感じ、即座に爆発を伴った斬撃で弾き喉笛を斬った。
「ギャッ!」
轟音と騒音の余韻に、間髪いれずに狛治が大声で呼び掛け指示を出す。
「天元!
もうすぐ"妻"がコイツの親鬼を追ってここに来る。
来たら天元はそこの隊士を連れて、子供を探してくれ。
子供はおそらく"生きてはいる"。近くにいるはずだ。
鬼はもうその2体だけだ。」
狛治がそう叫ぶと、それに含みのある低い声で応えた。
「いや、そういうことなら今行かせるし、俺も残るぜ?」
「…?」
再生を始める醜童を眼前にしながら、突如叫んだ。
「おい!お前ら、そこにいんだろ?」
低い植木の影がゴソッと音を立てたと共に3人の女の返事が聞こえた。
宇髄はその女たちに背を向けたまま指示を出した。
「雛鶴、そこの女隊士を連れていけ!
まきを、須磨は子供を探せ!
住人が待機しているところで待っていろ!
鬼はここに集まる。周辺は問題ないが慎重に探せ!」
「はい!天元様!」
3人の女は宇髄の妻たちであり、くノ一だ。
彼女たちは夫の指令を聞くと瞬時に姿を眩まして去った。
(忍か?コイツら……。)
そう悠長に構えて彼女たちが去った方を見た。
禍々しい颪の強い気配がぐんと辺りに影の重圧が射した。
「天元!」
来るぞというように名を叫ぶと、渦巻いた血液のうねりが二人を飲み込まんとす。
「血鬼術 血雨渦潮(チサメノウズシオ)」
「音の呼吸 伍ノ型 鳴弦奏々(メイゲンソウソウ)」
血の海の渦と突進してくる爆発から生まれた風圧が互いを相殺していく。