第9章 月詠の子守唄
「天元、か…。」
口角を上げて宇髄天元を見ると狛治は醜童に向き直った。
「おい、醜童。"俺ら"で相手してやるよ。」
鋭い眼孔で見下ろした狛治の後ろで、宇髄はその言葉に驚いた。
("俺ら"だと?会って間もない、しかも"上弦の参"だったという男。
簡単に俺を味方すると認識するな!)
しかし、それは裏を返せば、二つの別の意味にも行き着く。
一つは
お前は判断を間違うほど愚かではないと
もう一つは
狛治という男に襲いかかろうとこの男にとっては問題でもないということだ。
「じゃぁ、"どう"は、ギラギラの兄ちゃんから遊んでもらう!」
無邪気にはしゃぐ様子は普通の子供と変わらない。
しかし、尋常じゃない速さで殺気を強めながら狛治の脇を走り抜け、宇髄の元へ突進した。
「天元!コイツの声帯を掻っ切れ!」
「俺に指図すんじゃねぇ!」
反抗的な言動とは真逆に、宇髄は己に飛びかかって来ようとする子鬼の喉元を狙って飛びかかる。
何か消えそうな様子の醜童に、こちらをすり抜けてきそうな予感を瞬時に感じて瞬時に攻防の一手の構えをとった。
後ろ手で構えていた包丁のような巨大な橙色の刀身の二本の刀を繋ぐ鎖を自在に振り回し突進していく。
「音の呼吸 肆ノ型 響斬無間(キョウザンムケン)」
爆発音と共にその威力で両者間合いが空くが、斬撃の壁が醜童に襲いかかる。
その刹那、醜童は、己の恐怖心が喉を切り刻む前に叫び声をあげる。
「ちちうえぇぇぇ!!」
その声量に、高周波の音質が耳の奥を突き刺すような感覚に襲われる。
表情を歪める宇髄の耳からは出血していた。
「……ってぇな。爆音がなけりゃぁ、完全に聴力死んだわぁ。」
だが、目の前の子鬼はじゅくじゅくと音を立てて再生するものの、隙ができる。
「天元、受け取れ!」
離れて見ていた狛治が宇髄に聞こえるように叫び、視線が合うと小さなものを投げた。
(……耳栓?)
「………テメェ、おっせぇわ!っつうか、テメェも強ぇなら戦えや!」
そう言いながら渋々貰ったものを耳に装着すると、痛みが引いて、戦えると感じる程に聴力が回復した。
「へぇ、良いモノ持ってんじゃねぇか。」
男が重宝する聴力が戻り戦闘準備が整った合図に
ニヤリと口角を吊り上げた。