第9章 月詠の子守唄
その様子を隠れてじっと観察する男がいた。
相当な手練れである狛治ですら気付かないほどに、息を潜められるのは、今は滅びつつある"忍"の域ではなかろうか。
この男、桜華が先程助けた鬼殺隊の少女の連絡を担う鎹鴉が呼びに行った鬼殺隊の最高戦力"柱"である。
少女が任務に赴く際に、己より階級が下である少女を気遣い何かあれば近くで任務があるから呼べと言っていたのだ。
(上弦の参だと?だが、気配も鬼特有の匂いもしねぇ。
あの餓鬼の鬼の話からしてもそうだ。
擬態じゃねぇ。上手く身を隠しているわけでもねぇ。正真正銘の人間だ。
知り合いのように話すのも派手にわかんねぇ。
どういうことだ?)
怪訝な顔をして目の前で話をする"鬼と正体不明の男"に注意を配った。
"正体不明の男"が着ている黒い胴着の背には、
太陽の中に三日月を埋め込んだ刺青に見るような絵が白く描かれている。
(ここには胡蝶はいねぇが、あの男が手練れでワケわからん以上、こっから動くことも出来ねぇ。
どうする…。)
その時、子鬼が"上弦の参"と呼んだ男が振り返り、男と目があった。
こちらに気付いたのを悟った。
そして、来るな。邪魔をするな。という威圧を感じ取った。
だが、柱の男の思考を巡らせ決断する時間と
目で訴える男が視線を向ける僅かな時間で子鬼が気付く。
「他に人間、いるね。おいでよ。いっしょに遊ぼう。」
人間の子供のように害のない声で醜童は呼び掛けた。
「おい。出てこい。お前、柱だな。」
(チッ…!目の前の理解しがてぇ情報を整理するのに時間がかかったぜ。
しかし、あの背中の絵、何処かで……。)
苦虫を噛むような表情で姿を晒す。
その姿は、頭髪を白い布で覆い、ギラギラと大きな輝石で彩った額当てに梅の模様のような目の化粧をした大男だ。
「名を名乗れ。俺は日神楽 狛治。お前の敵ではない。」
(そうか、あの絵は御館様の屋敷で見た……!煉獄の旦那の跡継ぎが持ってきた書物の……。)
瞬時に敵"ではない"と判断し鬼に詳しいと察して男は名乗った。
「俺は、音柱。宇髄天元だ。」