第9章 月詠の子守唄
桜華と別れた狛治は、気配を辿りながら醜童を探した。
鬱蒼と生い茂る竹林を掻き分けながら進み、細い脇道へと出る。
脇道を先へと進んだところに、"滅"と書かれた黒後ろ姿が、肩を震わせて膝をついていた。
明治中期頃から変わったらしい鬼殺隊の隊服だとすぐに解る。
動かないその様子に異変を感じて駆け寄り、肩を揺すった。
「おい、どうした。」
女だった。
青ざめたままめを見開き、身体を硬直させて小刻みに振るえている。
「子供の鬼に会ったのか?
連れ去られた子どもはどうした?」
女の隊士は答えもしなければ微動だにしない。
(醜童か……。近くにいるな。)
「あれ?上弦の参のお兄ちゃん、ぎたいしてるの?」
幼子の声に後ろを振り向く。
後ろには、灰色の着流しを着て前髪を鼻下まで伸ばした幼児が、己を見上げて袖を引いている。
醜童は気配をも操る。
本人が近づいてくる者に気づけば、気配を消して近づく。
それが子供の身体をした鬼の殺り方だ。
「違うよね?なんで?人間の気配しかしないよ?
ねぇ、どうして?
お兄ちゃんから、イヤなニオイがする。」
醜童は、狛治の魂に宿った日の呼吸にと、己の血肉となった桜華の血に反応して、距離をとっているようだった。
「鬼をやってて幾年も経つようだが、頭の中は育たんようだな。」
哀れみをもった眼差しで醜童を見下ろす狛治は、意図したことだ。
自分の体が燃えるような、太陽の熱に醜童は己の身体をすり抜けることはしないであろうと。
幼い頭脳が故に、言葉は見かけによらず流暢になっていても、理解力に乏しい。
何より颪が挑まれた血戦や召集の際、他の鬼に会わせなかったこと、人間ともあまり言葉を交わさなかったということもある。
後退りする、醜童に問いかける。
「人の子供、お前が襲ったな?
子供はどこだ。」
「稀血の男の子なら、もう食べちゃった。」
悪びれる様子もなく、無邪気に答えた子鬼を
狛治は、己が記憶がない時と重ねて胸を痛めた。
だが、今食らったような血の匂いを感じない。
「嘘など匂いで見破れる。
もう一度聞く。
子供はどこだ。」