第9章 月詠の子守唄
(月の呼吸だと?!先程と違う!)
颪が一瞬、目を見開いた。
その瞬間を感じ取った桜華は月の刀扇を脇腹から払うように振り払い、月の呼吸 壱ノ型で斬りかかる。
対する颪はハッとした様子で怨襲血塊で振り掛かる三日月の斬擊をのせた風を迎え撃つ。
「血鬼術 血壁風雅(ケッペキフウガ)」
血の壁に斬擊が刺さり吸収するかのように消えて押し迫る。
ならばと、次の型を繰り出した。
「月の呼吸 伍ノ型 陽射月面鏡(ヨウシャゲツメンキョウ)」
月の粒子の壁が刀扇で作られ血の壁を粉砕し闇に消し去る。
その闇の中を突進し舞い狂いように刀扇を振るうと、明るい光の螺旋が振り掛かるように颪を襲う。
颪も負けてはいない。
残像をなぞるように飛び散る血が刃物となってその光の刃を相殺していく。
金属の叩き合う音が響た。
(あのお方からの情報と違う。今まで聞いたことも見たこともない呼吸を使い、上弦の壱殿と同じ呼吸を使う。
そして、この体術……!)
鬼側は日神楽家が戦える術を持っていたことなど知らない。
ましてやその生き残りがこのように腕の立つ者であったと最近まで本人すら知らなかった程だ。
(どことなく、立ち装い、今の拙者を殺そうと見る冷静な目付きも、なぜ上弦の壱殿を思わせる……。)
「子を守らねばと思う気持ちがあるのなら、なぜ、人を殺せるのです。あなたが殺す人間もまた、誰かの子なのですよ?」
「全てに恵まれて生まれた者に何が解る。愚か者め…。鬼よりも人間の方が鬼。憎くてたまらぬ。」
颪の動きと太刀振るう強さが増す。
それと同じくして刃のような血飛沫が広く飛び降りかかる。
(この言い方…!この反応…!この鬼は、世間を周りの人間を恨んでいる。
全部じゃなくても人の頃の記憶はあるのかしら?)
思考しながらも飛びかかってくる血飛沫を払い、颪に対抗する刀扇の熱を上げた。
(もう一体と融合するまで…!子鬼を助けに動くまで、傷は最小限にしなければ……。)