第9章 月詠の子守唄
「先程の威勢はどうした。所詮、柱ではない小娘。
もう、あとの二人も既に倅が相手をし、虫の息であろう。
止めを差すのは拙者の役目でござる。
そろそろ終いといたそうか……。」
怨襲血塊を少女を目掛けて突きかざす。
その切っ先に蝶の羽織を血に染めた姿で、息を上げて座り込んだ少女がいる。
頭部と胴体を最低限守りながら、彼女自身の得意とする剣技は使えず、血に気を囚われて思った以上に体力を使い込んでしまった。
ぜぇぜぇと息を切らしながら、刀を向ける鬼を見上げた。
(まだ立てる。せめてわたしが、ここで持ちこたえている時間に、子供を助けられたら本望よ。)
死を覚悟で、ここで囮になると決心した少女が立ち上がる。
刀を構え、静かに距離を取るのを、侍鬼は動きもせずじっと見守っている。
侍鬼が写した少女の目は、静かに強くこちらを見据え、その瞳の奥に闘志を燃やしていた。
少女の口許からフゥゥゥと呼吸音が静かに響く。
次の瞬間大きく刀を振り被って鬼に突進した。
「花の呼吸 伍ノ型 徒の芍薬(アダノシャクヤク)」
九連に列なる紅色の残像を帯び、上下左右から鬼を取り囲む様に放たれる。
ある程度の返り血を浴びることを覚悟でだ。
「なんと、愚かな……」
少女の脳裏に一瞬、共に精進してきた妹の笑顔が過った。
もう帰ってこれないと覚悟した。
赤い血が振りかぶってくる……
その瞬きする瞬間に
少女の視界に映ったのは
月のような黄色に光る風だった。
「結の呼吸 壱ノ型 イザナキの神産み」
少し離れたところから凛とした芯の強さを感じる声が、少女の耳に届いた。