第9章 月詠の子守唄
"黒の制服に、蝶の羽織を着た女子が、失踪した子供を探しに林道に10名ほど連れて入っていった"
日が落ちてすぐに入手した情報に、桜華と狛治は急いで林道に入った。
駆けていく中で、桜華は事前に狛治から聞いた情報と、目撃情報と整理していく。
自ら目の刻印の数字を上げるための血戦をすることなく、柱を上弦並みに葬った実力と厄介さだけで上へ上り詰めた鬼。
それが下弦の壱に君臨する親子鬼"颪(オロシ)"と"醜童(シュウドウ)"である。
颪は血を具現化する血鬼術で青年の侍、役人のような装いをした鬼。
醜童はまだ5つにも満たない容姿ではあるものの、高周波の血鬼術で、泣き叫ぶ声で聴覚を奪い、
幽体に変化しすり抜けることで、精神弱体化、五感麻痺を引き起こす。
そして、一番厄介なのはその二人が融合した時に首を落とさねば、颪をいくら斬っても鬼の血鬼術は威力を上げるというのだ。
狛治曰く、もし、鬼の強さの位を争う"入れ替わりの血戦"をしていたとするならば、間違いなく上弦の陸以上はいってたであろうという相手である。
血を浴びてはならない
声を聞いてはならない
近すぎてはならない
刀扇の斬擊で戦う桜華だからこそ出来ることで、剣を主流とする鬼殺隊では不利な者が多いというのが、狛治の見解である。
「産屋敷の考えが解らん。俺たちが行くとあの鴉に伝えたというのに…!」
並走しながら、眉間にシワを寄せて狛治が言った。
「被害が多かったのでしょう。せめて近隣住民の安全を守るために派遣されたのではと思います。
住民からの情報にも、ここ1週間の被害が尋常ではないと…。」
先ほど情報を教えてくれたのは消防団の男性で避難誘導の最中だった。
鬼殺隊も避難誘導に関わっていたが、
子供の失踪の一報を受けて、責任者が連れだって入っていったという話だ。
子供の母親は無理矢理に安全なところへ連れていって無事だという。
「取り敢えず、あちら側の状況と鬼の動きが解らない事には……。一先ず先を急ぎましょう。」
「あぁ。俺は子供の方を探す。安心しろ鬼の時でさえ俺より格下なのは間違いはないのだから。」
桜華は子供と隊士の無事を祈り、静かに頷いて、走る速度を早めていった。