第9章 月詠の子守唄
街と街の境目、人の行き交いが多く整備されている林道には、砂利が敷き詰められている。
気が遠くなるくらいにぐねぐねとした道は
夜になると明かりはなく、竹が風で叩き合ったり、笹が擦れる音が鳴る。
普段は月明かりが差し込んで美しい場所であるが、その晩は、人の血なまぐさい臭いが立ち込め、禍々しく重い気配が立ち込めていた。
(一瞬にして半数以上やられてしまったわ……。
何て速いの?
下弦とは聞いていたけれど……、今まで合ってきたどの鬼よりも強いし速い。)
長い黒髪、長身の少女の後ろには、残酷に切り刻まれた仲間が血を流して横たわっている。
怖気から震えだす手を根性で押さえ込み、深い呼吸で落ち着かせた。
「諦めろ。拙者を滅すことなど出来ない。」
少女の前に立ちはだかるのは、江戸の役人風体の鬼。
抜刀し、斬りかかってきたが、攻撃を当てていないにも関わらず、周りの者は斬られたように血を吹き出して倒れた。
「ごめんなさい。あなたを、許すことは出来ません。
そして、あなたが、これ以上罪を重ねてしまわないように、わたしはここで、あなたを斬ります。
子供はどこです?」
(伝達された鬼の情報は正確だわ。どうして事前情報が伝えられるようになったのかしら。
だけど、この鬼だけでは倒せないのは解っているのに、あと一体がどこにいるのか……。)
「……邪魔をするな。」
侍鬼の左目に"下壱"の文字が刻まれている。落ち着いた口調ではあるものの、その声は胸の奥に重く響き、動きを封じるほどの圧がある。
(斬って血を浴びるとそれが刃物になって人を抉るのなら、強くなってしまうなら"子鬼"はどうやって探せばいいの?)
「みんな!近くに子がいるはずよ。あと一体とこの鬼の血に気を付けて、その子を探して。」
「「はい!」」
少女に命を受けた二人はそれぞれ反対の方向に駆けていった。
「倅に傷をつけるな!許さんぞ!」
「私たちの仲間を殺しておいて、何をいうのです!彼女たちのところには行かせません!」
血の塊で作った刀の名は怨襲血塊(オンシュウケッカイ)。水をたっぷり含ませた布のように、振っても叩いても血飛沫が舞う厄介なものだ。
(血は皮膚に当ててはダメだわ。でも、足止めしなければ…!どうしたら…!)