第4章 矛盾
「この女は喰わせない。血の匂いを覚えたお前をここで殺す。」
怒り狂っているのか猗窩座は額から目尻にかけて青筋のようなものがビキビキと亀裂のように走り、「上弦」「参」と刻まれた黄色の瞳を包む水色に青い筋が浮き出ていた。
彼からは息ができない程の重苦しく黒い圧を感じる。
床で首根っこからギチギチと押さえつけられた鬼は、驚きと苦しさで悶えていた。
「汚いよだれを垂らすんじゃない。即刻表で殺してやる。」
そう言ってその鬼の頸を持ったまま、外へと走りだした。
外では地に打ち付けたり、殴り飛ばす音が聞こえるも、
意識が朦朧とするなかでその音を聴いていることしかできなかった。
猗窩座にとっては血鬼術を使わずに倒せるほどの相手。
それでも、損傷激しく再生が叶わなかった男の鬼は、血だまりとなりうめき声をあげている。
「なぜ…上弦と人間………が………。」
文字通りの鬼の形相で見下ろしながら確実に再生せぬよう、声が聞こえなくなるまで打ちのめし、そこらにあった木々をへし折り固定した。
陽光が見えなくなるくらいの洞窟の奥で鍛練していたため、
とうに日が暮れてしまい日付を跨ぐような時間になっていた。
それもこれも、邪念を取っ払うために苦労したことが要因。
まだ鍛練が足りん。
ちらつくのだ。桜華と映像にしか出てこない女の顔が。
それらは俺を戦いから遠ざかるように仕向けるようで、振り払いたいのにそこにいたいと思ってしまう。
とりあえず、遅くなった分桜華のことが気掛かりで帰りを急いだ。
あいつはまだ動けない。
それに、稀血だ。匂いに誘われたどり着く鬼もいるだろう。
そう思うと血の気が引いた。
何で助けようとしているのか
弱者を毛嫌らう今までの俺には検討もつかない。
それでも、もし彼女を死なせれば後悔に苛まれるような気がした。
いいや………
違う……………
俺は他の雑魚鬼にアイツが殺されるのが俺の矜持を逆なでる感じがするのだ。
けして、特別な……
ましてや、深入りするような気持ちも持ち合わせていない。