第8章 魂の雪蛍
旅立つ日。
使いの鷹が2羽、そして、中央に悟と明子。
二人を囲むように朱音と巧一が二人の前で手をつき頭を下げていた。
狛治と桜華は彼らと向かい合わせに座っている。
「2ヵ月間、お世話になりました。」
桜華が二人に頭を下げる。
「こちらこそ、こちらに足を運んでいただき、そして楽しい時間を有難うございました。」
朱音がそれに応えて頭を下げなおした。
「鷹は、桜華様の任を担いますのが月花(ゲッカ)
狛治様の任を担いますのが暁(アカツキ)と申します。
そして、ここにおります悟と明子をお二人の使用人としてお使いください。
ふたりは一般隊士ほどの剣術を身に付けており、
明子は医療の知識を身に付けております。」
明子と悟が使用人だと言うのはいま聞かされたことで、寝耳に水だとの思いで、桜華と狛治は顔を見合わせる。
そして、
「お二人は確かに、一番仲良くしていただきましたが、跡継ぎはどうされるのです?
朱音様。巧一様。細手塚家の大事な二人を連れていくことなど…」
桜華が身を乗り出し早口で異議を唱えようとした。
明子は末娘であっても、悟は朱音の細工のほうの跡継ぎのはずと思ってだ。
「ご心配には及びません。私もまだ現役。悟は要領も良く、もう、私から教えることはありません。
そして、今度は充の指導に専念したく思っているのです。
これからなにかと多忙を極めるでしょうお二人には、身の回りの事をする者が必要になります。
こうすることは、あなた方がここにいらしてから考えていたことです。」
朱音は既に腹を決めていて、断りきれぬよう少々押し付けるようなやり方で、彼女の子二人を連れていくように申し付けた。
「あなた方が、鬼狩りに専念できるようにする事が、残された私たち一族の勤め。
それに、悟と明子にはさらに多くの事を学び人間としても成長して欲しい。
どうか、二人を使ってください。
この子達も望んでのことです。」
穏やかに笑みを浮かべていう言葉の奥に、揺るがないものを感じた桜華は、手をついて礼を述べ、二人を受け入れたのだった。