第8章 魂の雪蛍
パチパチと松明の弾ける音。
月だけが照らす漆黒の闇に
神職のような狩衣を着た二人が舞う舞台を囲むように置かれた松明によって焔色に染まった。
笛と鼓、手平鉦が奏でる雅楽に合わせて
左右の端から二人が入り、中央に並んで腰を落とすように会釈した。
舞い踊る演舞は日神楽舞踊。
しかしそれは、いつものそれとは違って
日の型は狛治が桜華の動きに合わせて
格闘に剣術を載せ上書きしたもの。
__シャン………__シャン………
二人が手元にもつ鈴の音が、悪鬼や邪気を払うように鋭く鳴る。
舞えば、二人の顔を隠す月と太陽のシンボルがはためく。
期間は短かろうと、共に過酷な旅と鍛練をしてきたもの同士。
息の合い様は見事なものだった。
神聖なこの儀式は、いろんな意味を持ち合わせ
それぞれの想いで織り成したもの。
__シャン………__シャン………
掻き鳴らす鈴の音は、その想いを現実に変える決意を促させるもの。
創業者であり、日神楽舞の考案者は
月の呼吸の使い手を月詠尊(ツクヨミノミコト)
日の呼吸の使い手を天照大神(アマテラスオオミカミ)
と見立て、
対の踊りを"結"として神格化させたという。
唄には
鬼にされた悲しき人間の虚しさ
鬼にされたものの家族の心情を唄い
鬼の始祖に罪を償う日の元へ誘い
鬼の世を終わらせるとある。
桜華は、その唄に狛治と恋雪を重ねた。
狛治はほぼ核心に近い意味を感じ取って舞う。
晩夏の命の舞は、
闇夜の神に捧げるように
厳かに執り行われ
静かに時の扉を開けていくようだった。