第8章 魂の雪蛍
「それはもういいのです。
彼と出会わなければ、わたしは、こうして当主になる決意も覚悟も持てなかった。
だがらこそ、あの出来事は起きるべくして起きたこと。」
「先ほど、狛治が述べたように、こちら側がすべき決断はわたしが下します。
わたしが当主です。
話は必ずわたしを通して戴きたい。」
話す口調、瞳は凛としていて、
夢で会った雄治さんを彷彿させるものだ。
「承知しました。
して、鬼退治はどのように進めるおつもりで…。」
「鬼については、耀哉様やわたしよりも狛治の方が詳しい。
よって、そこは狛治の見解と分析、戦略を聴いた上で判断します。」
「あの書にも書いたが、鬼の首魁は用心深く生に貪欲だ。
故に、あっちが不利だと感じれば身を隠す。
慎重に事を運ばねばならん。
上弦をやるのは、その先の最終局面に備えて、柱が10人ほどまで増えてからだ。」
そうでなければ、今いる強者も、これから育つ強者も守れない。
この間聞かされた、鬼狩りの状況を知っているからこそ。
強い鬼は一体だけではない。
隊士と鬼の戦術の相性だってあるだろう。
それに、今は鬼舞辻を誘き寄せる要素も手段もない。
だからこそ、俺は今は表だったことをしてはならぬ時期だ。
「俺は前代表と同じく、そのときまで余程の事がない限り息を潜めていたい。
最低限、あと一人、日の呼吸の伝承者と出会うまでは……。」
雄治さんが言っていた日の呼吸を今も受け継ぐ子孫が現れるのなら、必要となってきたときに現れてくれるはず。
あの人の予感は信じたい。
「もし、あなたの大事な人が、強い鬼にさらわれたとしたら、どうなさるおつもりですか?」
鴉は容赦ない。
一番痛いところをついてくる。
「桜華と共に助けにいく。
彼女に俺を隠して行けば鬼の間で情報共有ができない。
その前に、ここを出たら、一体……いや、二体倒しておきたい下弦の鬼がいる。
桜華……、君はここで力をつけてきた。
俺が育てた君だ。
やれるな?」