第8章 魂の雪蛍
「もとよりこっちも、桜華と共にそうしたいと願っている。
そして、俺は婿入りした身。当主は桜華だ。
鬼側の情報は知っている限り渡すが、何か決め事で行動や判断をするのは彼女無しで進めることはしないぞ。」
「それは承知しております。
生憎、我が主は病が故に、体力があまりなく、遠出ができません。
少しずつでも信頼を積み重ね、桜華様のために裏で動くこともしていきたい。
あなたと彼女の関係を切り裂くようなこともしなければ、泣かせるようなことをするお方ではありません。」
「我が主と桜華様は竹馬の友であり、家族のような間柄。
そして、産屋敷家と日神楽家は互いの因縁の元を解くために400年手を携えてきたのです。
もう時が迫って来ているという今、
互いの信用をなくしたり、傷つけるようなことは無益。
その事実だけでも信じていただきたい。」
「その因縁とやらは知らん。が、こっちが与えた過失の方は何となくだが、俺は理解している。
俺も、人間やお前たちには甚大なな被害を与えた一人にすぎない。
ここを出れば、珠世という女のところに行くつもりだ。
そのときにその因縁とやらを聞きく。」
「その方がお二人にはよろしいと思いますよ。」
そこまで鴉がしゃべると、後ろに障子が開く音を聴いた。
「久しいですね。いらっしゃることは予感しておりました。」
今起きたような声ではない。
今の話どこまで聞いていた?
そんな俺の心配をよそに
しっかりした口調で桜華は、鴉にむけて話しかけた。
「内容は聞き取れませんでしたが、声と話し方であなただと思いました。
随分ご無沙汰してしまいましたね……。」
聞かれてなかったのか?
"因縁"とやらを尋ねることなく、平常心だ
ならば安心だが……
「これはこれは…。
産屋敷が、あなた様の生存を涙ぐんで喜んでおりましたよ。
長らく辛い境遇を救えずに申し訳なかったと。」
頭を伏せるようにして話す鴉は、人間がするかのように申し訳なさを詫びているようだった。
桜華は障子を閉めて、俺のとなりに静かに腰を下ろした。